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最終更新日:2020.05.11

教養学部報

第596号 外部公開

送る言葉「蜂巣泉先生を送る」

谷川 衝

天文分野、特に理論天文学のコミュニティでは、自分の指導教員や目上の教授の方であっても、「先生」付けではなく「さん」付けで呼ぶことが多い。そのため、私は普段「蜂巣先生」ではなく「蜂巣さん」と呼ばせていただいている。しかし、ここは送る言葉の前例に従い、やや違和感を覚えるものの、「蜂巣先生」と呼ばせていただくことにする。

私が蜂巣先生に初めてお会いしたのは、十七年前、私が当時の広域科学科に進学したときの歓迎会のときであるから、学部三年生のとき(もしかしたら学部二年生かもしれない)であったと思う。当時の私は、広域科学科に進学するだけあって、必ずしも天文学を指向していたわけではなかったが、私の父も天文学者で蜂巣先生と知り合いであるため、共通の話題で盛り上がった覚えがある。ご存じの方も多いと思うが、蜂巣先生は気さくな方なので、そのあたりが自分に合いそうだということで、後に自分が宇宙地球部会に所属することになるきっかけの一つになったかもしれない。

蜂巣先生は一九九二年に駒場に着任され、以来駒場で研究と教育に従事してこられてた。蜂巣先生の研究分野は多岐に渡っているが、特にご専門とするのは、白色矮星の表面での熱核爆発である新星や、白色矮星全体の熱核爆発であるIa型超新星である。ここで、白色矮星とは太陽のような恒星の最後の姿である。Ia型超新星は非常に明るい天体というだけではなく、個性の少ない天体として知られている。その特徴が利用されて宇宙の加速膨張が発見された(二〇一一年には発見者にノーベル物理学賞が授与された)。しかし、Ia型超新星の前身がどのような天体であるのかは未だにわかっていない。蜂巣先生はIa型超新星の前身に関する新しいモデルを一九九六年に提案された。この論文は国際的に高く評価されており、引用数は非常に多い。

また、蜂巣先生は、前期課程の講義である宇宙科学を担当なされてきた。この講義は毎学期開講されており、毎回四百人を超える学生が受講する。おそらく現在の若手の天文学者でこの講義を受講された方も多いかと思う。このような大変な講義を二十年以上続けてらっしゃったのには、頭が下がる思いである。一方で、大学院生の研究指導は放任に近いスタイルを取っている。もちろん無責任に放任しているわけではなく、院生が自主的に議論しにいけば、蜂巣先生はとことん議論につきあう。院生の自主性が失われているという声が聞こえる今日(とはいえ私が院生の頃からその傾向はあったが)、このスタイルには賛否両論あると思うが、「蜂巣先生の下で自由に研究ができてよかった」という院生も多い。
蜂巣先生は現在でも査読付きの主著者論文を年一本以上のペースで発表し続けている現役の研究者である。おそらく定年退官後も現役の研究者としてあり続けるのであろう。蜂巣先生の今後のますますの活躍を願って送る言葉としたい。

(広域システム科学/宇宙地球)

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