HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報597号(2018年1月 9日)

教養学部報

第597号 外部公開

駒場の国際学生交流の新たな出発

永田淳嗣

二〇一七年七月、AIKOMプログラムの最後の受入学生十七名の修了式が行われた。同じ頃、最後の派遣学生が次々と帰国し、教養学部独自の短期交換留学制度であるAIKOMプログラムは、その二十二年の歴史に幕を下ろすことになった。東京大学では全学交換留学プログラム(USTEP)がスタートし、AIKOMの協定校との交換留学も二〇一四年度から順次USTEPに移管され、今年度をもってUSTEPへの統合が完了することとなった。

AIKOMとはAbroad In KOMabaの略である。まだ今ほどに東京大学の国際化が叫ばれることのなかった時代、初代AIKOM委員長の高田康成名誉教授をはじめ、「AIKOM創設の父、母」とでも呼びうる何名かの教養学部教員の獅子奮迅の働きにより、一九九五年にAIKOMプログラムは立ち上げられた。創設時の協定校は八カ国九大学であったが、歴代教養学部長からの力強い支援もあり、協定校は二十カ国三十二大学に拡充された。二十二年間に毎年二十五名前後の学生の受入・派遣を行い、その総数は受入五三二名、派遣四五五名に達する。

AIKOMプログラムの終了というこの節目に、昨年十月二十一日、AIKOM同窓生のイベントが賑やかに実施された。当日はまず第一部として、十八号館ホールで八十五名の参加者を集め、「変わりゆく世界と留学の意義」と題するシンポジウムが開催された。冒頭で石田淳学部長、土居守国際センター副センター長・USTEPオフィス長よりご挨拶を頂き、続いてAIKOM委員長よりAIKOMの歴史の紹介、グローバリゼーションオフィスの大澤麻里子講師より、その活動の紹介がなされた。この後パネルに移る。パネリストはいずれもAIKOM同窓生で、LEE Jangyong氏(受入:ソウル国立大学:世界銀行勤務)、JURAMY Helene氏(受入:パリ政治学院:EU勤務)、石川浩氏(派遣:カリフォルニア大学:経済産業省勤務)、向山哲史氏(派遣:トロント大学:三菱商事㈱勤務)、松田成美氏(派遣:ミュンヘン大学:メルセデス・ベンツ・ファイナンス㈱勤務)、KUEK Bryan氏(派遣:北京大学:㈱キトー勤務)の六名であった。さすがに社会の一線で活躍されている方々たちだけあって、現在の自分から留学経験を振り返った報告はよく練られ、聴衆を引きつけるものであった。自らもAIKOM同窓生である北村朋史准教授(派遣:ミシガン大学)の見事な司会進行により、フロアとの質疑応答も活発に行われた。

続いて場所をルヴェソンヴェール駒場に移し、第二部として懇談会が開催された。冒頭で石田淳学部長にご挨拶を頂き、AIKOM創設メンバーの一人である木畑洋一名誉教授の乾杯と続いた。懇談会はAIKOM同窓生八十五名(受入四十二名、派遣四十三名)を中心に一二三名の出席者を集め、会場は大変な熱気につつまれた。受入同窓生の中には、この日に合わせて日本訪問の予定を組んだ方もいるという。後半では「AIKOM創設の母」の一人である能登路雅子名誉教授のご挨拶、AIKOM創設以来その屋台骨として、派遣学生、受入学生一人一人に最も近いところで活躍してきた君康道講師のスピーチと続き、会は大いに盛り上がった。グローバリゼーションオフィスのスタッフの周到な準備に加え、学部長室、事務方、それに学生ボランティアの多大なるご協力により、イベントは滞りなく終了した。
AIKOMプログラムのUSTEPへの統合が完了し、現在、駒場キャンパスを拠点に勉学に励む短期交換留学生の数は、部局間協定(KOMSTEP)や、他のプログラムによる受入学生も含め、セメスターごとに八十〜百名規模に達している。AIKOM委員会では、AIKOMアカデミック・プログラムの後継として、教養学部独自の短期交換留学生向けのアカデミック・プログラムGlobal Studies in Asiaを立ち上げた。このプログラムは教養学部後期課程の学融合プログラムの一つGlobal Studiesと一体となっており、「留学生と一般学生がともに学ぶ」というAIKOM以来の理念を制度化する工夫もなされている。ただしAIKOM時代と比べると、留学生の数が大幅に増加しているだけでなく、協定校の数も増え、理系の学生も加わり、受入学生の背景や留学に対する意識は多様化している。AIKOMの経験を最大限に活かしながらも、新たな状況に即した対応が求められている。AIKOMプログラムの終了を駒場の国際交流の新たな出発として、教養学部の教職員、東京大学の関係部局との協力のもと、東京大学の国際交流、とりわけ学部レベルでの短期交換留学を核にした質の高い国際交流の新たなかたちを、駒場から創造していければと願っている。

(AIKOM専門委員会委員長/広域システム科学/人文地理学)

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