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最終更新日:2022.12.06

教養学部報

第597号 外部公開

送る言葉「川又雄二郎先生を送る」

小木曽啓示

川又雄二郎先生は、一九七七年に東京大学大学院理学系研究科修士課程を修了され、同年東京大学理学部助手に採用されました。マンハイム大学助手、Miller Research Fellow(カルフォルニア大学バークレイ校)等を兼任された後、東京大学理学部講師、助教授を経て、一九九〇年に三十七歳の若さで東大理学部教授に昇任されました。その後、改組に伴い数理科学研究科教授に配置転換され現在にいたっています。一九九〇年には極小モデル理論における顕著な業績により、国際数学者会議(ICM、京都)の招待講演者に選ばれるとともに、日本学士院賞(「代数多様体の分類理論の研究」)を飯高茂先生、森重文先生と共同受賞されています。また、戸田幸伸IPMU教授、伊藤由佳理IPMU教授をはじめとする三十名の博士を輩出されるとともに、東京大学グローバルCOE「数学新展開の研究教育拠点」の拠点リーダー、国際数学誌Journal of Algebraic Geometryの編集者、国際研究集会Complex Algebraic Geometry(オーバーヴォルファッハ数学研究所)の主催者をされるなど、後継者や若手育成、国際研究交流にも多大な貢献をされてきました。

川又先生の六十歳の還暦記念研究集会が、二〇一三年一月に東大数理で開催されました。川又先生はそのときのご講演で、小平先生の最終講義「数学の進歩のパターンも生物の進化のパターン同様、最先端から新しい分野が生まれるのではなくて、新しい分野は原始的なところから生まれる。泥沼にもぐって何も見えない所を暗中模索で這いまわっているといつのまにか思いもかけない珍しい結果が出てくる。」に大変感銘を受けられたとおっしゃっていました。ご講演のあと、Siu先生が、「大きな獲物は(透明な浅瀬ではなく)深海にしかいないから。」といっていたことも鮮明に覚えています。まさに川又先生のお仕事の特色もそこにあると思ったからです。川又先生は、高次元双有理代数幾何学という深海の中に、川又-Viehweg消滅定理、KLT(川又対数的末端特異点)対に対する固定点自由化定理、有理性定理、錐体定理、三次元アバンダンス定理、極小モデル間の双有理写像のフロップへの分解定理をはじめとする数々の有用かつ美しい大定理を見出され、極小モデル理論の基礎を確立されました。KLT対は川又先生の貢献に敬意を表して命名されたものです。これらの定理はKLT対の概念とともに、高次元双有理代数幾何学において、なくてはならない基本的な道具・概念となっています。今では高次元双有理代数幾何学は数学の花形分野の一つですが、先生が研究を始められた当時は、否定的な現象も多く、まさに泥沼にもぐっての暗中模索も多かったと思われます。

深海、泥沼というと、何故かダイビングに誘っていただいたこと、オーバーヴォルファッハでのキノコ狩りをご一緒できたことも、先生とのよい思い出です。ダイビングは、自分には“深海”(とはいっても水深十メートル位)にもぐった初めての経験でした。泳ぎの苦手な自分には大変でしたが、少し暗い海の中でまじかに見る魚の大群の美しさや躍動感には本当に感動しました。オーバーヴォルファッハ数学研究所は南ドイツにあり、開催される研究集会のレベルの高さとともに豊かな自然に恵まれた研究所であることが魅力です。季節によってはキノコ狩りができます。キノコ狩りといっても、キノコ畑があるわけではなく、研究所裏の森の中を歩いて自然に生えているものを探すというものです。ある時、ドイツ在住の先生に誘われて川又先生と一緒にいったのが最初だったと思います。泥沼の話や数学と少し似たところがあって、整備された道沿いをいくら目をこらして歩いても食べられるキノコは見つかりませんが、道を離れて木々の中を深く入りこんでいくと、時には面白いように見つかったりします。川又先生は最初からキノコ狩りもとてもお上手で、超一流の数学者は違うなと感心したことを覚えています。

現在、川又先生は、導来代数幾何学という新しい深海にも果敢に挑まれておられます。また、台湾国立大学のディスティングイッシュトプロフェッサーをはじめ、東大ご退職後も世界中から招待講演、研究滞在等のオファーを受けておられると聞いています。先生の益々のご活躍とご健康、ご多幸をお祈りして、送る言葉とさせていただきます。

(数理科学研究科)
 

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