HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報601号(2018年6月 1日)

教養学部報

第601号 外部公開

<時に沿って>開かれた駒場への憧れ

伊藤 武

二〇一八年四月に総合文化研究科の国際社会科学専攻に着任した伊藤武です。駒場に戻ってきたのは一九九一年に入学して前期課程を過ごして以来、四半世紀振りです。本郷の法学部・法学政治学研究科や社会科学研究所、そして専修大学で勤務していました。専門はヨーロッパ政治、特にイタリア政治です。

進振りのとき国際関係論に進むか迷って、華やかだから自分には無理だと避けた身として、駒場で研究・教育に携われるのは感慨深いものがあります。ちなみに、妻が国関の出身なので、あのとき駒場に進んでいたら、絶対に一緒になったはずはないねと話しています。

入職したばかりですので、駒場について書けるのは、主に学生時代のことです。学生さんも読むようなので、私も自分の学生時代のことから始めます。四月の駒場の独特なキラキラした雰囲気を見ると、自分もその一員だったのかと懐かしくなります。とはいえ私の駒場生活は、下宿、教室、図書館、家庭教師のアルバイトの四角生活と地味なものでした。何か明確な将来の志望や強い学問的好奇心があったわけではありません。今や死語ですが、「モラトリアム」学生の典型。選択肢が広そうだという理由で文科Ⅰ類、法学部と進みました。将来の進路から逃げて逃げて逃げ続けて、ついに最も潰しのきかない研究者の道を選んでしまったのは、何という皮肉でしょうか。さらに研究対象として、ヨーロッパ比較政治上の「外れ値」として悪名高い?イタリアを選択したのも不思議です。

振り返ってみれば、そんな選択の背景には、駒場時代のいろいろな選択を許してくれる懐の深さがあったと思います。実に多彩な学生・先生が居て、こうしなければいけないとお節介がない世界は、とても居心地の良いものでした。名前は教養学部でも、授業内容は昨今流行りの「よくわかる」ものではなく、時に頭が焼き切れそうになり、知らない内に研究の世界に誘導されていたのでしょう。

多分今の学生さんの方が、ずっと向学心もあって、スマートだと思います。四半世紀前と比べると、はるかに多彩なプログラムが用意されているのに驚きます。少しキャンパスを歩いても、自然科学から人文科学、社会科学まで興味深いセミナーが開催されています。留学や専門的勉強など、学生さんが好奇心を持てばそれを活かせる機会は増えたはずです。正直羨ましいなと思います。

でも、機会が多いのは、私にとっても同じです。政治学はもともと折衷的学問で、私自身、史料も読めば、インタビューもしますし、数理や計量を用いた分析にも関心があります。どの分野にも、今まで本や論文で存じ上げていた凄い先生方がおいでです。学生さんの中にも悪い意味ばかりでなく、良い意味でも、「とんでもない」答案を書く方がいます。さまざまな機会に開かれた駒場で研究・教育できる境遇を活用して自分も学び、学生さんにも研究の面白さを伝えられたらと願っています。

(国際社会科学/法・政治)

第601号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報