HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報603号(2018年10月 1日)

教養学部報

第603号 外部公開

総合文化研究科博士課程の小川哲さんが第三十一回山本周五郎賞を受賞

武田将明

超域文化科学専攻博士課程(表象文化論)に在籍する小川哲さんが、第三十一回山本周五郎賞を受賞した。

本賞は、「すぐれて物語性を有する新しい文芸作品に授賞する」(新潮社ウェブサイトより)もので、今回は二〇一七年四月から二〇一八年三月までに発表された小説作品から五つの候補作が選ばれ、五月十六日に開催された選考会にて、小川さんの受賞が決定した。選考委員(敬称略)は、石田衣良、荻原浩、角田光代、佐々木譲、唯川恵。六月二十二日に開催された贈呈式には、小川さんの指導教員であるジョン・オデイ先生も駆けつけたという。

受賞作は『ゲームの王国』(早川書房)。一九五〇年代から近未来までのカンボジアを舞台にした長篇SF小説で、『小説新潮』二〇一八年七月号に掲載された選評を見ると、「おもしろくて焦った」(石田衣良)、「この作者は大ボラ吹きだ。つまり、凄い才能の持ち主ということだ」(荻原浩)、「『ゲームの王国』を読んでいるあいだの興奮は、味わったことのない種類のものだった」(角田光代)など、新しい才能の出現への驚きが口々に語られている。

言うまでもなく、山本周五郎賞は、エンターテイメント系の小説に与えられる賞では、直木賞と並んで最も権威のあるものの一つである。なぜ新人賞ではなく、いきなり山本賞なのか、と思われるかも知れないが、小川さんの場合、すでに二〇一五年に『ユートロニカのこちら側』(早川書房)で第三回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞し、デビューを果たしている。そして二作目の『ゲームの王国』で、早くも山本賞に輝いた。なお、本作品はすでに第三十八回日本SF大賞も受賞している。

今回の受賞について、小川さんご自身から次のコメントをいただいた。

僕が専攻していた人文学には、二つの方向性があるのではないかと思っています。一つは事実をコツコツと積み上げて、より高い場所に立つというものです。もう一つは、自分たちが立っている地面を崩壊させ、それは事実ではないと突きつけて、人々を奈落へ落としていくというものです。小説とは、「物語」というレベルで前者を行い、「問い」というレベルで後者を行う作業ではないかと思っています。まだまだ半人前とはいえ、大学で人文学を専攻したことが創作の役に立つよう、これからも精進していきたいと思います。

教養学部・総合文化研究科での学びが、想像力と批評性を兼ね備えた小川さんの作品に結実しているとすれば、これほど喜ばしいことはない。小川さんの今後のさらなる活躍に期待したい。

(言語情報科学/英語)

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