HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報604号(2018年11月 1日)

教養学部報

第604号 外部公開

<時に沿って>出張の楽しみ

石毛和弘

東北大学から異動して半年が経ち、二十年ぶりの東京生活も少しずつ慣れてきました。数学は大きく代数学・幾何学・解析学の三つに分けることができ、私の研究分野である偏微分方程式論は解析学に属します。偏微分方程式は様々な自然現象を記述するために作られたものですが、私は特に、拡散現象、つまり、物質が濃度の高いところから低いところへ移動する現象を記述する偏微分方程式の定性的性質を研究しています。
数学者にとって他の人との議論はとても大切です。議論によって新たな展開が生まれることがあるだけではなく、人に説明することによって自身の考えが整理され自己解決できることもしばしばです。数学はその普遍性故に世界に開かれた学問であり、数学者は研究集会や共同研究の機会を得て国内外を問わず議論を求め出張します。特に、自分と異なった価値観や研究背景をもつ研究者との議論は、自分の視野を広げてくれることも多くとても勉強になります。私の場合、海外ならば、イタリアのフィレンツェ大学に行く回数が多いのですが、現地で会う研究者との議論は私の研究を豊かにしてくれています。自分としては不思議なのですが、例え、研究に行き詰まりを感じていても、共同研究者と同じ式を眺めながら黒板で議論していると、突然、良いアイデアが出てきて研究が進むことが多くあります。そして、研究後に、上手く行こうが行くまいが、仲間と共にお酒を味わいながら郷土料理を食べ、数学に留まらず様々な話しをするのは私にとっての出張の楽しみの一つです。
最近では、この五月中旬にストックホルムにあるミッタク・レフラー研究所にて一週間の滞在型国際研究集会に数人の日本人と共に参加してきました。この研究集会では、参加者が朝食や昼食、さらにはお茶の時間を一緒にとることによって研究者交流を促進させており、とても有意義な時間を過ごすことができました。丁度、白夜の季節でもあり、深夜まで空は明るく、鳥たちが夜の十時くらいまで美しく鳴いているのも印象的でした。そして、自由時間には、ノーベル博物館に行き、定番のノーベル賞のメダルチョコレートをお土産に購入しましが、お土産を入れるための紙袋にアルフレッド・ノーベルの有名な言葉である“If I come up with 300 ideas in a year, and only one of them is useful, I am content”と書かれた紙袋とそのデザインの秀逸さに感動していました。
私の学部生時代はバブル絶頂期、博士課程の頃はバブル崩壊した直後の時代でしたが、その頃は外国での研究集会に参加するには自費を使う、もしくは、特別な資金に援助を仰ぐのが普通でした。日本に来る国外の研究者も今よりはるかに少なかったように思います。しかし、今は様々な国際交流プロジェクトが動き、学生がサマースクールや国際研究集会へ参加、さらには海外に長期滞在し研究を行うことが普通に行われる時代となっています。学生の皆さんの英語でのコミュニケーション能力は私の学生時代の学生と比べ総じて優れていると思います。今後の皆さんの活躍が楽しみであると共に、そのような機会をより多く作ることに貢献できれば、と思っています。

(数理科学研究科)

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