HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報604号(2018年11月 1日)

教養学部報

第604号 外部公開

<時に沿って>駒場の景色

神保晴彦

二〇一八年七月一日付けで総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系の助教に着任しました。学部から博士まで過ごした埼玉大学では、光化学系Ⅱの修復メカニズムについて研究を行い、博士(理学)を取得しました。博士課程の間にはアメリカへ一年半留学し、遺伝学的解析手法とバーベキューの極意を学びました。学位取得後、埼玉大学の博士研究員を経て、東大駒場へ来ました。
私は現在、光合成が構築され、メンテナンスされるメカニズムを、主にシアノバクテリア(原核生物)とクラミドモナス(真核生物)を使って研究を行っています。光合成は光合成生物にとっても非常に重要な生体装置でありますから、温度や光、活性酸素種などに応答して、その機能を調節しています。私は特に、葉緑体と核が細胞内でどのようにコミュニケーションを行って調節しているのか、また光合成とタンパク質合成を行う翻訳系の関係について興味を持って研究しています。さて光合成と聞くともう昔の話のように思っている方が多いかもしれませんが、次々と新しい現象や機能が明らかとなっている非常に先駆的な分野です。今では光合成複合体の結晶解析や量子物理学などのミクロな視点と、生態系やモデル理論を解析するマクロな視点が共存しており、これらを総合した新たな論点から新しい学問となることが期待されます。身近でありながら未知の光合成の科学は、生物学だけではなく物理学や化学、数学を含めた広域な科学でもって解明されるべき分野であります。
ところで研究を行っていると「視点」は非常に大切な要素であることに気付きます。私は日常の中でも、視野を広く持つためになるべく目線を上に保つように心がけています。すると視野だけではなく、聴覚や嗅覚などの他の感覚も研ぎ澄まされて、感性が豊かになり、視点に富んだ考えを生み出せます。多くの視点を持つことは研究だけではなく、自身と他者を見つめ直す時にも役に立ちます。ところが非常に残念ながら、最近はどこへ行っても、スマホを見て、イヤホンをし、マスクをつけている人をたくさん見かけます。駒場キャンパスは四季に富んだ美しい場所ですから、どうかここでは鋭敏になって、心を養っていただきたく思います。今この記事を書いている時は、微かな金木犀の香りに秋の訪れを感じます。もうしばらくすると、銀杏の匂いがそこら中に立ち込めて、皆さんの感性を激しく揺さぶることでしょう。
東大駒場キャンパスは渋谷から電車で数分の場所にありながら、自然の色彩豊かでとても美しい場所だと日々、感動しています。駒場の綺麗な景色を見ていると、自ずと背筋もピンと伸びます。これから東京大学の一教員として誇りを持って教育と研究に取り組みたいと思っておりますので、どうかよろしくお願いいたします。

(生命環境科学/生物)

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