HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報605号(2018年12月 3日)

教養学部報

第605号 外部公開

駒場をあとに「大らかな駒場に育まれ」

宮内由美子

まさか教養学部報にこのような機会を頂くことになろうとは思ってもおらず、恐縮の極みです。イランの古都シーラーズで数年働くつもりが、イラン革命前夜の混乱で緊急帰国命令が出てしまい、これからどうしたものかと悩んでいた時に偶然目にしたのが教養学部教養学科の公募でした。当時、教養学科長でいらした故衛藤瀋吉先生より、公募とは別だが国際関係論教室で働いてみないかとお声を掛けて頂き、一年程駒場に通う様になり、翌一九八一年八月から十六年七か月を国際関係論教室助手、一九九八年四月から二十一年を留学生相談室講師として、通算三十八年を越える長きにわたりこの駒場で過ごさせて頂きました。あっという間だったようにも感じますが、緑豊かな駒場の自然をバックに、これまでの数々の素晴らしい出会いが走馬燈のように思い出されます。
当時の国際関係論教室には、故衛藤先生をはじめ、故菊池昌典先生、公文俊平先生、渡邉昭夫先生、平野健一郎先生、石井明先生、山影進先生、白石隆先生がおられ、右も左もわからない私に分け隔てなく接してくださり、数えきれないほど多くのことをご教示くださったことはいくら感謝してもしきれません。また、オーストラリア研究、カナダ研究、韓国研究の授業担当の外国人教師の方々とご家族のサポートや大学院の留学生の病気や事故のサポートをするうちに、まだ渋谷にあった入国管理局へ出向くこともしばしばありました。
社会科学科の研究室全てが二号館に引越し、国際関係論教室以外の先生方とも接する機会が増えた頃、教官人事を巡りマスコミを賑わす一大騒動が駒場に起こりました。当時は何が何やら解らぬまま、激化するマスコミ報道と職場の重く張りつめた空気に押しつぶされそうになった記憶もあります。
そして大学全体が大学院重点化に進む中、国際社会科学専攻以外の専攻の先生方からも多くの事をご教授頂き、複雑な駒場の組織を少し理解出来る様になった気がしました。
その後、一九八七年の創設以来留学生相談室で主にカウンセリングをされておられた黒岩晰子先生のご退官に伴い、後任として一九九八年から留学生相談室に異動となりました。
以来、世界各国から来日した前期課程から大学院博士課程まで沢山の留学生と出会い、共に悩み、苦しみ、怒り、そして笑いながら留学生アドバイザーとして過ごすうちに二十一年もの歳月が流れてしまいました。
沸点の低い私を宥め、落ち込んだ時には激励下さった滝浪幸次郎先生と徳盛誠先生、そして未熟な私に大きな信頼を寄せてくれた留学生達への感謝の気持ちでいっぱいです。
タイ、ベトナム、韓国で行われた日本留学フェアの際には、一時帰国中の留学生達が東大ブースに駆けつけてくれ、一日千人を越える質問者に現役生の声を届けてくれた事、見学旅行先の宿では本音で一晩語り明かした事など懐かしい思い出です。
この二十年で駒場キャンパスの国際化も進み、PEAK(学部英語特別コース)をはじめ様々な留学形態が生まれ、国際交流支援の形も多様化し、留学生も母国を背負うのでなく、己のための留学という意識が強くなってきました。そのような流れの中でも留学生相談室では従来通り、学位取得を目指す長期の留学生の支援を主に扱ってきました。
四月入学の前期課程の留学生(約百名)に関しては、全員の指導教員として、学習支援(履修・進学・日本語)や生活支援(奨学金・宿舎・在留資格・アルバイト・就職・病気・事故・人間関係)を行い、問題の深刻化を未然に防ぎ、留学生活の基盤を整え、無事進学できることに重点をおいてきました。
留学生担当になったばかりの頃に出会った留学生も今では日本の大学で教鞭をとる者や起業し母国と日本の懸け橋となっている者もおり、苦労しながらも立派に活躍している姿は頼もしく、私の励みにもなりました。
大学院の留学生(約三百名)からは、休学すると在留資格の関係上ビザの更新やアルバイトが出来なくなるため、論文完成までの長い道のりの過ごし方の相談が頻繁にありました。また留学生と指導教員や職員との円滑な意思疎通の手助けや出産育児の支援も思いの外ありました。
もっと別の対応もあったのではないかと後悔することばかりですが、この二十一年間に事件事故を含め、命を落とした留学生が一人もいなかったことは、何にも勝り有難いことでした。これも学部長室はじめ緊急対応してくださった保健センターのドクター、法的手続きのアドバイスをくださった法学の先生方、母国の親御さんとの連絡を助けてくださった外国語の先生方、学生支援課や教務課、学生相談所、ハラスメント相談所の方々のお蔭です。留学生の代弁者のごとく無理なお願いも多々致しましたが、留学生に寄り添ってくださり本当に有難うございました。お蔭様で大らかな駒場に育まれ、私も無事巣立ちの時を迎えられます。心より感謝を込めて ごきげんよう

(超域文化科学/留学生相談室)

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