HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報605号(2018年12月 3日)

教養学部報

第605号 外部公開

送る言葉「留学生相談室の宮内先生」

徳盛 誠

大学は、教育と研究の現場を中核としながら、それ以外の多種多様な場とともに存立し、機能している。宮内由美子先生の長年の活動が示してきたのは、留学生相談室もその欠かせない一つの現場であるということだ。一九九八年四月に着任されて以来、先生は、本学の留学生の受け入れのありかたが大きく変わる中で、一貫して前期課程、後期課程、大学院にわたる駒場の留学生一人一人の実り豊かな留学の実現を目ざし、奮闘してこられた。
急を要する問題が相談室の外から飛び込んでくることもあった。しかし基本は一〇一号館二階の天井の高い静かな相談室で、留学生と向き合い、その話に耳を傾けることにしっかり据えられていた。「相談室」という間口の広さに、あるいはそこに先生がいるという信頼感から、多くの留学生が訪れ、相談を重ねてきた。その場で解決をみる事柄もある一方、面談を重ねて真の問題を探り当てたり、難題の解決に向けてともに行動を起こしたり、時に滝浪幸次郎先生と私と三人で話し合って対策を考えたり。相談に来るべきなのに姿を見せない学生の対応を考えたり、直接寮や下宿先を訪ねたことさえある。その対応に原則はあっても決して一律ではなかった。留学生それぞれが固有の背景と事情と思いとを抱えているのであり、先生は問題に向かう際、つねにそれを見きわめて対応されていたからだ。だから、学生に寄り添い各所で交渉する一方で、学生を叱ることも突き放すこともあったことを私は知っている。先生のいた相談室もまた充実した教育の現場であったと今思う。
必要に応じて駒場内や学内の関係部署、教職員、時には学外の留学生支援に携わる多くの方々と繋がり、問題の解決に当たってこられた行動力を間近で見て圧倒されながら、その底につねに信念のようなものがあるのを感じてきた。それは、相当に困難な状況でも、なお身一つの自由を確保することくらいはできる、それなりに楽しく生きることさえできるということ。図太さ? 明るさ? いずれにせよ、この心構えに裏打ちされた言動は、学生達にとって当座の困難の解消以上の意味をもったのではと思う。
この原稿を書くのに、イラン、シーラーズの日本人小学校で教えておられた若き日の経験をうかがい、イラン革命に向かう激動の中帰国を余儀なくされ、ご苦労も多かった一方で、現地では、友人たちと共同購入した馬を乗り回し、授業で生徒達も乗せたこと、豊富なキャリアをもっておられる音楽演奏では、ひょんなことからアンサンブルの一員として毎週の国営テレビ出演をはたされたことなども知ることになった。ああ、最初からこうだったのだと感じ入った。その情熱とバイタリティとを駒場の留学生に伝授し、長い間留学生の支援に傾けてくださったことに心から感謝し、御礼を申し上げたい。

(超域文化科学/留学生相談室)

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