HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報606号(2019年1月 8日)

教養学部報

第606号 外部公開

法医工文理農経養育薬

田村 隆・山口輝臣

前期課程の学生で、『進学選択の手引き』を知らぬ者はあるまい。最新版は青みがかった表紙である。冊子をめくると、進学可能な諸学部は、常に次の順で現れる。法学部・経済学部・文学部・教育学部・教養学部・工学部・理学部・農学部・薬学部・医学部。進学選択関係の書類その他でしばしば見る順番であろう。ところが、表紙の方はどうだろう?【写真】
ユータスくんの周りを囲む諸学部は、どう見ても、本文の順番とは別物である。傘(からかさ)連判状をイメージして、学部の順序付けを避けたのだ─そう推測したくもなるが、ハズレである。表紙の諸学部はテキトーに並んでいるのではない。はじまりがあって、おわりがある。言い換えれば、順序がある。ユータスくんの視線の先にある法学部から時計回りに「法医工文理農経養育薬」という順に並んでいるのだ。
そう読み取る根拠は、「東京大学基本組織規則」第二三条である。そこには、「東京大学に、次の学部を置く」として、各学部が「法医工文理農経養育薬」の順で並んでいる。不審に思う人は、規則を手元の便覧もしくは東大のウェブサイトで確認してほしい。ついでに言えば、その第二八条あたりを読んでみると、さらに奥深い世界を垣間見ることができるだろう。
話を戻すと、この「法医工文理農経養育薬」が東京大学における規則上の並び順となる。公式サイトの「学部」などでも確かにそうなっている。『進学選択の手引き』の本文は、進学選択の資料という目的に沿って、科類順に並び替えたものである。
「法医工文理...」などはじめて知ったという人もいるかもしれない。しかし東京大学の学部生であれば、実は要所要所で、すでにこの並び順を目の当たりにしている。
たとえば、入学式の壇上に居並ぶ各学部長。式辞を読む関係で教養学部長が演壇にもっとも近い位置にいるほかは、ちゃんと「法医工文理...」と並んでいる。それに気づく新入生などいないだろうが...
卒業式も同様である。ただしこちらは会場の都合で文系と理系とが別々に行われるため、文系は「法文経養育」、理系は「医工理農薬」と並んでいる。しかしこれもよく見ると、それぞれのなかでしっかり並び順の通りになっているではないか! 総代に対する学位記授与も、もちろんこの順になされる。東大生は、入学から卒業まで、とくに意識することもなく、「法医工文理...」に則っているのである。
では、どうしてこうした並び順になっているのか?
東京大学における学部の並び順の起源は、一八八六年の帝国大学令に「法医工文理」とあったことにある。この順番となった理由は判然としない。実用的な学問から順に並べたという説が有力だが、疑問も残る。そしてこれ以降は、戦前・戦後を通じて、新設された学部を最後に加え続けて現在へと至っている。なお、途中で養と育の入れ替えがあったのだが、煩雑になるので省略する。要するに「法医工文理農経養育薬」は、一三〇年以上前の勅令に由来し、その後にできた学部を付け加えてできあがったものである。
この並び順は、ほかの大学と大きく異なり、国立大学のなかでも東京大学に特有のものである。一例として、京都大学の並び順を掲げておこう。総合人間学部・文学部・教育学部・法学部・経済学部・理学部・医学部・薬学部・工学部・農学部。一見して明らかに違う。
では、どうして東京大学の並び順はほかと違うのか? 
それを考えるヒントは一九四九年の国立学校設置法にある。そこに示された新制東京大学の並び順は教養学部が筆頭で、文学部・教育学部・法学部・経済学部...と続いている。実はここからがおもしろいのだが、なんとなんと紙幅が尽きた。続きの気になる学生の皆さんは、初年次ゼミナールの成果を活かし、まずは田村・山口の共著論文を探し出してほしい。

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(超域文化科学/国文・漢文学)
(地域文化研究/歴史学)

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