HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報606号(2019年1月 8日)

教養学部報

第606号 外部公開

<時に沿って>助教就任に際して

鴻巣 暁

二〇一八年九月に身体運動部会助教に着任しました、鴻巣暁(こうのすあきら)と申します。研究テーマは予測的運動制御の神経機構とスポーツ動作の力学分析です。身体運動科学研究室において二〇一七年度に博士号を取得し、特任研究員を経て、現職に至ります。二〇一八年度 Aセメスターでは「身体運動・健康科学実習」の授業でテニスと卓球の種目を担当します。
さて、私が初めて研究を面白いと感じたのは博士課程二年、二十六歳のときです。「逆上がり」の達成に有効な運動学的変数の組み合わせを数理モデルによって算出したところ、実際の動作の測定値ときれいに一致しました。この結果がコンピューター画面に表示されたとき、私は胸のすくような喜びと感動を覚えました。
しかし、ここまでには時間がかかりました。「変な生き物」が好きであったことから、私は学部、修士課程と生物学を専攻しました。最先端の実験機器を使用させていただき、一流の研究ノウハウを教わりました。この間の経験や知識は今も私の拠り所です。しかし、肝心の研究テーマに対しては、どこか他人事のように向き合っていました。それらが純粋に自分の中から湧き出たアイディアではなかったからだと思います。
博士進学に際して、私は身体運動科学を志しました。身体運動に興味を持ったきっかけはテニス中に肘を故障したことでした。怪我の治癒と再発防止のため、体の構成要素や力学を真剣に学びました。身体に関する知見を深めるため入学した博士課程で始めた研究が、自分が小学生の時に苦手としていた「逆上がり」でした。結局のところ、博士課程まで進学して私が辿り着いた研究テーマは、自分にとって身近な学問分野の身近な題材ということになります。
研究には時間がかかります。何が重要な研究テーマかは、結果が出るまで分からないようなところがあります。本学部のご卒業生で二〇一六年にノーベル生理学・医学賞を受賞された大隅良典先生が受賞理由であるオートファジーの研究を開始されたのは、本学部の助教授に着任されてからのことだと伺っています。
研究に必要な時間に対して、修士課程は非常に短いです。研究の本当の面白さを知る前に、見切りをつけてしまう人は多いのではないでしょうか。そうであるとすれば、非常にもったいない話です。
私の場合、将来絶対に研究者になると高校生のときから決めていました。好きなことができて時間に余裕が持てると思ったからです。研究したいことがあったわけではありません。動機は浅はかかもしれませんが、この決意に度々救われてきました。研究が上手くいかないことは日常茶飯事です。それでもここまで研究を続けてこられたのは、研究者になると早い段階で決意し公言してきたからに他なりません。
以上の経験を踏まえ、将来研究者になりたいと(漠然とでも)考えている学生には、研究者になるという意思を強固にし、何があっても博士課程に進むことをおすすめします。

(生命環境科学/スポーツ・身体運動)

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