HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報607号(2019年2月 1日)

教養学部報

第607号 外部公開

送る言葉「坪井俊先生を送る」

河野俊丈

坪井俊先生は、一九七八年に東京大学大学院理学系研究科修士課程を修了され、理学部数学科の助手に就任されました。その後、理学部数学科助教授などを経て、一九九三年に数理科学研究科教授に昇任されました。二◯一二年から四年間にわたって数理科学研究科長を務められ、研究科の教育研究、運営に多大な貢献をされました。
坪井先生のご専門は位相幾何学で、葉層構造の研究、多様体の無限変換群の力学系理論的研究、微分同相群の分類空間と変換群の不変量の研究などにおいて、気鋭の幾何学者としてこれらの分野を牽引してこられました。葉層構造は、田村一郎先生以来、東大が世界をリードしてきた研究分野で、坪井先生はその中心的な存在として国際的に活躍され、多くの若手研究者を育ててこられました。葉層構造の特性類等の定量的理論の研究においては、三次元多様体の余次元1の葉層構造のGV不変量を葉層同境によって特徴づけたことは坪井先生の輝かしい業績として挙げられます。また、一階連続微分可能というクラスで独創的な研究を展開されたことは特筆に値します。さらに、多様体の微分同相群についても多くの成果を挙げられており、群の完全性について深い研究をされています。
坪井先生が研究科長になられた二◯一二年に数理科学研究科は創立二十周年を迎えました。二十周年記念誌を改めて開いてみますと、研究科の創設からその様々な構想に至るまで、坪井先生のご尽力の大きさを感じます。数理科学研究科棟は一九九五年に第一期棟、一九九八年に第二期棟が竣工し、二◯◯六年に図書室増築が行われましたが、坪井先生は、研究科のメンバーのコミュニケーション、研究者の交流の場としての交流スペースの重要性を訴えられ、その結果、研究科棟にコモンルームが設けられました。これは現在、研究科における重要な議論の場となっています。また、坪井先生が研究科長を務めておられる間、二◯一二年の博士課程教育リーディングプログラム「数物フロンティア・リーディング大学院」の採択、二◯一三年の数理科学連携基盤センター、生物医学と数学の融合拠点など、大きなプロジェクトを次々と成功に導き、数理科学研究の担う教育研究の深さと広がりに多大な貢献をされました。玉原国際セミナーハウスでは、高校生数学キャンプなどのアウトリーチ活動を積極的に展開されました。二◯一一年にリヨンで東大フォーラムが開催された際に、リヨン高等師範学校と共同で数学の研究会を開催され、これはその後、二年ごとに開催される東大数理とリヨン高等師範学校の共同コンファレンスとして続いています。現在行われている数理科学研究科の様々な活動の多くは、坪井先生がその基礎となるグランドデザインを築かれました。
このように、坪井先生は数理科学研究科のあるべき姿を私たちに示して下さいました。このことに深く感謝申し上げるとともに、坪井先生の今後のますますのご活躍を祈念いたします。

(数理科学研究科)

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