HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報607号(2019年2月 1日)

教養学部報

第607号 外部公開

送る言葉「駒場キャンパスにて加藤道夫先生を送る」

横山ゆりか

加藤道夫先生は、本学工学部建築学科のご出身ですが、私とは専門が異なり、先生のご研究をよく理解しているかと改めて問われると覚束ないように思いますので、ここではル・コルビュジエのご研究については触れないことにします。建築学科というところは、工学が中心ではあるのですが極めて学際的なところで、建築意匠を担当する建築家の先生方のほかに、建築構造学、建築材料学、環境設備工学、建築計画学、建築史学といった諸分野の先生方の集まった文理横断型の学科であることは、あまり知られていないように思います。加藤先生はその中で、建築意匠の香山壽夫先生の研究室を卒業されており、そのご縁から入られて長らく駒場のキャンパスの更新・整備に力を注がれました。そのあたりの経緯は、「見えないイメージを可視化する」(東大駒場友の会会報第三十一号,平成三十年九月十五日,pp.2-3)にご自身で詳しく書かれています。私も加藤先生が製図板に前かがみになられて線を引いてらっしゃるのを時おりお見かけしましたが、先生が手掛けられた建物がどれであるのかについて不覚にも今日まで存じ上げませんでした。そこで、機会が失われる前にと思い先生ご自身にうかがってみることにしました。ここにその内容をご紹介し、駒場キャンパスに関わる先生のご業績を振り返りたいと思います。
先生のキャンパス計画への関わりは、香山先生のご助言をいただきながら駒場キャンパス再開発・利用計画要綱(一九九三)原案作成から始まったそうです。当時は駒場CCCL(Center of Creative Campus Life)計画というのがあり、このプログラムの見直しなどもされたということです。その後、一九九九年第一次整備計画概要の原案作成、二〇〇〇年度「駒場図書メディアセンター」構想ならびに概算要求用文書作成、二〇〇二年二月パブリック・コメント用「駒場コミュニケーション・プラザ(仮称)」計画(案)作成と、次々にキャンパスのマスタープランの原案を作成され、二〇〇三年四月には、筑紫一夫氏と駒場キャンパス計画室(KCP)を発足させるに至ったそうです。その後も二〇〇五年二月「駒場地区駒場Ⅰキャンパス第二次整備計画概要」改訂の原案作成、二〇〇六年「理想の教育棟」構想策定、二〇〇七年度「東京大学一三〇周年記念事業に伴う整備事業計画」の原案作成を手掛けられ、二〇〇九年東京大学キャンパス計画室副室長に就任されてからは、二〇一〇年「駒場地区キャンパス再開発・利用計画要綱」改訂の原案作成にも関わられたということです。こうしてお聞きしてみると、加藤先生の関わられなかったキャンパスの構想はこの二十五年間なかったのではないかと思われます。
したがって、各構想に含まれていたキャンパスの建物・施設の中で基本設計に先生が関わられたものも数多くありました。先生にお聞きできた範囲で完成年順に列挙すると、
①一九九四年 一号館前広場整備
②一九九五年 一〇一号館エントランス待合
③二〇〇三年 情報教育棟B棟
④二〇〇四年 アドミニストレーション棟改修および外構(ウッドデッキ・アプローチ等)
⑤二〇〇三年 駒場博物館リニューアル
⑥二〇〇四年 駒場ファカルティハウス(国際学術交流会館)
⑦二〇〇五年 十八号館 概算要求時の基本設計および実施段階に関与
⑧二〇〇六年 五号館耐震改修 基本方針(ガラス壁など)
⑨二〇〇六年 一号館トイレ改修 原案作成に関与
⑩二〇〇六年 駒場コミュニケーション・プラザ 基本構想およびPFI要求水準書の計画案作成
⑪二〇〇七年 八号館耐震改修の指示および周辺の銀杏並木の外灯・点字ブロック・道路等整備 原案作成
⑫二〇〇七年 ロッカー棟
⑬二〇〇七年度 知のプロムナード(教養の道、歴史の道、自然の道)図案プレート・モニュメント・ウッドデッキ・ベンチ等の整備
⑭二〇〇八年 初年次活動センター
⑮二〇〇八年 一二郎池周辺の環境整備
⑯二〇一一年 銀杏並木の剪定と舗装、点字・誘導ブロック設置
⑰二〇一一年 21 KOMC EE West
⑱二〇一二年 更衣室及び倉庫、野球場屋外便所の整備
⑲二〇一四年 21 KOMC EE East
⑳二〇一五年 六号館の駒場国際教育研究棟への改修
といった建物・施設設備の基本構想あるいは基本設計に関与され、その他、二〇〇四年駒場保育所移転の際の図面チェックをされたり、また二〇〇六年七号館耐震補強方針決定、二〇〇七年六号館耐震補強の緊急避難的措置の手配など耐震補強にも心を配られたりされたそうです。中でも、駒場コミュニケーション・プラザは二〇〇八年に社団法人東京都建築士事務所協会の第三十四回建築作品コンクールで東京建築賞最優秀作品賞を、さらに第四十九回建築業協会賞(BSC賞)を受賞しています。以上のうち主要なものは、先生の思いのこもった設計として上述の駒場友の会会報の記事に紹介されています。
皆様が日々使われている建物・施設設備の多くの名前が挙げられましたが、これらの企画・基本設計に関わられてきたご尽力の大きさに心から敬意を表したいと思います。

(広域システム科学/情報・図形)

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