HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報607号(2019年2月 1日)

教養学部報

第607号 外部公開

<時に沿って>転機としての駒場時代

大塚 修

平成三十年十月一日付けで総合文化研究科地域文化研究専攻の准教授として駒場に赴任しました。私は教養学部文科三類時代に駒場でお世話になった後、本郷の文学部に進学したため、駒場に所属するのはそれ以来ということになります。時がたつのは本当に早く、それからもう二十年近くになりますが、至るところにビラが貼りつけられていた当時からすっかり綺麗に様変わりした構内を歩いていて、少々戸惑っています。しかし結局、昼食の際には、新しくできた食堂の方にではなく、当時通っていた蕎麦屋の方へと向かってしまうのですが。そして、年甲斐もなくそこで「大冷やしたぬき」を頼んでしまい、それを激しく後悔しながら、時に少しだけ昔を振り返りつつ蕎麦をかみしめています。
私はこれまで中東イスラーム地域の歴史の研究を進めてきました。扱っている主な史料はアラビア語やペルシア語の文献です。その中でも、特に普遍史書(天地創造に始まり、著者と同時代に至るまでの通史を扱った歴史書)という歴史類型に属する文献群の分析を行うことで、人類の歴史や世界がどのように捉えられ、それらの知識がどのように伝達・受容されてきたのかを明らかにしてきました。この作業により、現代とは異なる、宗教的世界観に支配されていた前近代の知の在り方を明らかにすることを目標としています。これ以外に、写本研究にも取り組んできており、中東地域だけではなく、ヨーロッパや南・中央アジアなど世界各国の図書館で史料調査を行い、ペルシア語テクストの校訂も行っています。
しかし、大学入学当初、漠然と歴史の研究をやりたいなくらいにしか思っていなかった私が、何故中東イスラーム地域の歴史の研究を志すようになったのか、直接的な契機については、いくら昔を振り返っても思い出すことはできません。ただ、折角の機会だからと色々な授業に出席する中で、こういう研究対象があって、大学でこういう研究ができるのか、と徐々に興味を持つようになっていったことは覚えています。また幸運だったのは、その際に意を決して受講したアラビア語やペルシア語の初級の授業が、学生を飽きさせることのない現地の魅力が滲み出た授業だったことで、おかげで何とか脱落せずについていけました。当時の様々な先生方と仲間たちとの出会いの中で、自分のやりたい研究の方向性が定まってきたのだと思います。そういう私にとって人生の大きな転機の一つとなったのが駒場時代でした。
大学生活は長いようであっという間です。どう時間を使うかは皆さん次第ですが、是非色々なことにチャレンジし、自分の可能性を広げていってください。そして、後で振り返って後悔しないように、充実した時間を過ごし、今後の人生への転機となるような出会いを見つけてください。それでは、機会があれば、授業でお会いしましょう。

(地域文化研究/歴史学)

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