HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報608号(2019年4月 1日)

教養学部報

第608号 外部公開

東京大学2019年度新入生のみなさんへ

総長 五神 真

599_01-1.jpg新入生の皆さん、入学おめでとうございます。東京大学の教職員を代表して、平成最後の東京大学学部新入生になる皆さんに心よりお祝いを申し上げます。皆さんがこれから学ぶ東京大学は、明治十年(一八七七年)に創設されました。当時の日本は文明開化の真っただ中であり、西欧からの新しい事物や制度との出会いに満ちた激動の時代でした。
今を生きる私たちが直面しているのもまた、「激動の時代」です。明治の激動との大きな違いは、それが人類全体を巻き込んだ大きな転換であるということです。環境破壊やエネルギー問題、大規模テロ、金融不安といった課題は一部の国や地域に留まらず、地球全体を巻き込んだ課題としていっそう深刻化しています。民主主義、資本主義、国際ルールといった、人類が長年育ててきた社会の基本的な仕組みそのものが根底から揺さぶられる事態になっていることは、皆さんも感じておられるでしょう。
この地球規模での変動をもたらし、変化を加速させている一つの要因は、デジタル化の浸透と急速な拡大です。膨大なデジタルデータがサイバー空間上に蓄積され続け、私達が実際に暮らす物理空間と不可分なものとして融合が進んでいます。同時に人工知能など巨大データを活用する技術が急速に進んでいます。経済的な価値もモノから、知恵・情報・サービスへとシフトし、知識集約型社会とも言うべき新しい社会へと不連続な転換が進んでいます。この転換の結果、未来はどうなるのか、私達は今まさに分水嶺に立っているのです。
私は今こそ、大学が主役になって、より良い社会を創るべきだと考えています。大学は多様な人々が出会い、協働する場として最適だからです。前例のない新しいモデルに向かうには、異なる知恵を出し合うことが必要です。知恵は多様なメンバーが関わってこそ膨らみ、動き始めるのです。
また、大学における時間の多様性も重要です。最近の政治や行政、産業界の動きを見ると、長期的な視野が不在なのではないかと心配になることがあります。そうしたなか、大学では遠い過去や、誰も見たことがない遙か未来を往還して考え、自然や人間の本質を追求する中で、何が大事なのかと言った問いを立て、自由に論議し、鋭く指摘することが許されています。
激動の時代だからこそ、大学の出番なのです。豊かな歴史に支えられ、文理を超えて行き交う知と人材が揃い、最先端の研究を担っている東京大学は、未来社会を構築するけん引役になる責務があるのです。皆さんはその東京大学の一員になられました。その幸運を噛み締めて、学生生活を有意義に過ごしてください。
学生生活を実り多きものにするための私からのアドバイスは、「まず、踏み出すこと」です。明日からでも取り組める秘訣を三つ伝えておきたいと思います。一つは、友人や先輩と交流し、教員には積極的に質問することです。皆さんはこれから、「テストの点数」という一次元のものさしから開放され、多次元に広がる価値の世界を歩んでいくのです。皆さんはこれまで、比較的似た境遇の人々の中で育って来たかもしれません。キャンパスで出会うこれまで関わったことがないようなタイプの人たちと積極的に関わり、楽しんで下さい。自分自身を見直し、それを通じて多様性を尊重するとは何かということを深く理解する助けになるでしょう。また、先生方も大いに活用してください。東京大学には、学生と学問とに真摯に向き合う教員が集まっています。皆さんが扉を叩けば、世界最先端で活躍している先生方が時間を厭わず、議論に付き合ってくれるでしょう。
二つめは、図書館の活用です。皆さんのなかには、学びたい領域を心に決めている人もいるでしょう。ただ、学問は皆さんの想像を遥かに超えた広がりを持っています。そのことを実感できるのが図書館です。足を踏み入れ、歩いて回り、背表紙を眺めているだけでも、学術の拡がりと深さを感じることができるはずです。図書館は、さまざまな学問の世界への入口になっています。
そして三つめは、国際感覚を鍛えるための授業やプログラムに積極的に参加することです。世界は複雑で多様です。皆さんが生きる時代は、人々の異質性を受け入れながら行動することが不可欠です。その基礎を大学在学中にしっかり身につけて下さい。その為に、新しい仕組みを創りました。国際総合力認定制度(Go Global Gateway)です。国際交流や留学に役立つ情報が得られ、留学やサマープログラムに参加する為に必要となる語学検定試験の受験料が補助されるなどの支援も充実させています。これからの学生生活を豊かにするためにも、また卒業後のキャリアのためにも、まずは登録し、そしてぜひ活用してください。
皆さんが大学生活を楽しむためには、まずは心身の健康が大切です。私たちもできるだけのサポートを行います。皆さんの大学生活が充実したものとなるよう、健康と健闘を祈っています。

(東京大学総長)

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