HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報608号(2019年4月 1日)

教養学部報

第608号 外部公開

オトナのコマメシ3

堀田知佐

私が十八だった頃、食することは二の次で、一号館売店で買ったパンを片手に七号館横の噴水を前に腰を下ろして時間を惜しんでおしゃべりをしていた。一体何をそんなに話すことがあったのか。当時は駅の立ち食い店と変わらぬ品揃えの学食で、毎日毎日飽きもせず同じカツカレーを食べ続ける友もいた。学食は今も十二時過ぎれば長蛇の列だ、これに運悪く遭遇したら裏門へ。「たけ」でワンコイン弁当が手に入る。もっと出せばヒレカツへとグレードアップ。
初めてのフランス語講義で読んだバルトの「表徴の帝国」にはこうあった、東京は皇居を中心にまわっている、道には名前がない。そう、東京は緩やかに幾重もの大きな円を描き、街は小さな駅を核にした様々な有限サイズの円の重ね合わせでできている。さしずめ駒場の円は、南は駒下から北は裏門や北門を少し出たあたりか。駒場に通った二年もの歳月がありながらこの円の外へ出なかったのは何故だろう。北門を出て左手に目に入るのが一号店といわれるFRESHNESS BURGERだ。古き良きアメリカン調のレトロなデザインの店構え、時折マニアックな独自メニューを出している。目の前の一本道を北へゆくと、自家製漬物がおいしい八百屋さんを左手、魚屋さんを右手に、続いてクッキー屋さん、dinerのローストビーフ丼、最後にお茶屋さんがひょっこりあらわれる。ここにも焼きカレーを発見。さらに大通りに出て道なりにはminimal。カカオと砂糖だけでできた贅沢なホットチョコレート。こうしてその先の代々木八幡駅の円へと繋がる。
もっと賑わいを求めるなら、駒場Ⅱキャンパスの北からさらに北へとのびる緑の道路の商店街に足を延ばすとよい。うどん屋さん、花屋さん、フレンチ、雑貨屋さん、古着屋さん、渋谷とは趣の異なる緩やかな空間が広がる。道沿いには渋谷行の百円乗りのちいさなハチ公バスがのんびり運航中。代々木上原駅の円はもうすぐそこだ。商店街を抜けて井の頭通りを左に曲がり道沿いに駅を超えてゆくと東京ジャーミーのエキゾチックな建物が見えてくる。一般の見学も自由だ。
駒場の円の中だってよい。駒場Ⅱキャンパスの研究所にはあまり足を延ばすことのない学生諸君も、ぜひ一度日本民芸館や前田侯爵邸にて古き良き日本を味わってはどうか。海外から来た友達はここに来ると大喜びだ。駒場Ⅱキャンパス⑦には食堂も二つ三つ、周りにはカフェもいろいろ。春には侯爵邸奥の広場は満開の桜に囲まれる、お弁当をもって一杯。
オトナのコマメシ第一号から二年経って店も変わり、マップも更新されていく。駒下のカフェや軽食もふえた。店長の自作リノベの店tokyo pasta worksで自家製平麺を、Roast and Bakeではホットサンドとコーヒーを、雅にぃに立ち寄りカスタード鯛焼きを、そしてティラミス屋まで。これではワークアウトどころではなく、とてもとても残念だ。

(相関基礎科学/物理)

komameshi3.png

第608号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報