HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報609号(2019年5月 8日)

教養学部報

第609号 外部公開

<後期課程案内> 法学部

教授 五百旗頭薫/垣内秀介

法学・政治学を学ぶということ
http://www.j.u-tokyo.ac.jp/

1 法学部とは
みなさんは、「法学部」と聞けば、もっぱら「法学」の研究・教育をしている学部だろう、と思われるかもしれません。しかし、実際には、本学の法学部では、狭い意味での法学だけでなく、政治学の研究・教育も行われています。従って、法学部における研究・教育の対象としては、法学と政治学という二つの柱があるわけです。そして、法学部には、法学総合コース、法律プロフェッションコース、政治コースの三つのコースがありますが、どのコースに進む場合でも、比重の差はあれ、これらの双方を学ぶことになる点では、変わりがありません。
2 法学を学ぶということ
法学部で法学を学んだ学生の進路として、みなさんがまず思い浮かべるのは、裁判官や弁護士、検察官といった法律家でしょう。実際、本学の法学部からは、毎年多くの学生がそうした途を志し、卒業後、法科大学院などを経て、実務法曹として活躍しています。しかし、法学部卒業生の進路がそうした狭い意味での法律家に限られるわけではありません。本学の法学部は、伝統的に多くの行政官を輩出してきましたし、民間企業等に進む卒業生も、決して少なくありません。とはいえ、大学で法学を学んだという意味では、こうした卒業生も含めて、広い意味での法律家と呼ぶことができるでしょう。
それでは、こうした広い意味での法律家とは、どのような資質を備えた人のことをいうのでしょうか。この点については様々な考え方がありますが、突き詰めていえば、法律家にとって最も基本的な資質とは、様々な利害や欲望が渦巻く現実社会に対して、自由で独立した主体として対峙し、言葉一つを武器として切り込み、分析し、説得する能力だといえるでしょう。そして、こうした能力を身に付けるためには、一方で、現実に対して十分に批判的であるとともに、他方で、批判の道具となるべき言語そのものについても批判的であることが求められます。法学が長い歴史を経て形成された強固な概念や理論の体系をもつことは、前者の側面に対応するものであり、法学を学ぶ際には、まずそうした言語体系の習得が不可欠です。これは、外国語の習得の際に、まずは単語や文法を覚える必要があるのと似ています。そうした勉強は、特に初めは無味乾燥と感じられるかもしれませんが、まず言葉を知らなければ、それを使って自由に議論することもできないわけです。他方で、自由で独立した主体として議論に参加するためには、条文や判例を暗記し、それに盲従するというのではなく、それらを踏まえた上で、さらに批判的な検討にさらすことが求められます。そうでなければ、現実の変化に対応し、新たな問題への解決を生み出すこともできないわけです。
一口に法学といっても、憲法、民法など、現に法として通用する様々なルールの内容を検討する分野のほか、法哲学、法史学など、そこから一歩距離をおいた上で、その基礎を探求する分野などがあり、それに応じて、法学部でも多様な科目が提供されていますが、それらは、総じて、上記のような能力の養成に役立つものといえるでしょう。
3 政治学を学ぶということ
政治コースでは、他のコースと共通のカリキュラムから科目を選択して履修しますが、一般的にその進路は、行政・ビジネスを中心によりバラエティに富んでいます。政治学を学ぶことでどのような資質を得られるのでしょうか。
政治学は、先に述べた様々な利害や欲望が渦巻く現実社会に対する、より具体的な知識を得ることを目的としています。
現代社会では、議会での立法が政治の焦点なので、政治学と法学との関係はとても深いといえます。それに加えて、議会のメンバーを決める選挙、立法に基づく行政、そして他国と織りなす国際政治は、重要な分野です。予算や立法に影響を及ぼす経済との関係も近年、注目されるテーマです。
方法論としても、歴史、他国との比較、そして説明変数と被説明変数を明確にして因果関係を探求する政治科学など、とても多様です。
したがって、政治学を学ぶ上では、旺盛な好奇心を持ち、幅広い知識を身に着けることが必要です。しかしそれだけではいけません。重要な政治事象を理解するためには、一つの分野や方法論だけでは不十分であることがほとんどです。ある分野や方法論によって自分が得た知識そのものを相対化し、他の分野や方法論で得た知識とすり合わせなければなりません。
政治コースでは、法学を学ぶ時間が他のコースよりは短くなりがちです。それでも法学で必要な批判の作法を身に着け、それを自分の知識そのものに適用しなければなりません。こうした批判精神に基づく総合性によって複雑な社会を認識し、そこに働きかける能力を鍛えることが政治学の重要な意義です。
法学部の中で政治学を学ぶというのは、国内においても国外においても決して普遍的ではありませんが、大変好ましいことではないでしょうか。

(法学部教授/総合法政)
(法学部教授/総合法政)

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