HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報609号(2019年5月 8日)

教養学部報

第609号 外部公開

<後期課程案内> 工学部

工学系研究科 副研究科長 相田 仁

工学とは
http://www.t.u-tokyo.ac.jp/

皆さんは工学というと何を連想されるでしょうか。多くの方が「ものづくり」を思い浮かべると思います。とくに、ロボコン(与えられた課題を達成するロボットを作って性能を競い合う競技)が広く知られるようになったおかげで、油まみれで機械をいじっているとか、根性でロボットを動かそうとする「ロボ根」のイメージを持っている方も少なくないのではないでしょうか。あるいは、理学部で研究した成果を製品化するのが工学部と思っている人もいると思います。確かにこのような「ものづくり」は工学の重要な一側面ではありますが、工学はそれよりずっと広い学問です。
八大学工学部長会議の下に設置された「工学における教育プログラムに関する検討委員会」は、一九九八年に工学を次のように定義しています。「工学とは数学と自然科学を基礎とし、ときには人文社会科学の知見を用いて、公共の安全、健康、福祉のために有用な事物や快適な環境を構築することを目的とする学問である。工学は、その目的を達成するために、新知識を求め、統合し、応用するばかりでなく、対象の広がりに応じてその領域を拡大し、周辺分野の学問と連携を保ちながら発展する。また、工学は地球規模での人間の福祉に対する寄与によってその価値が判断さる。(原文ママ)」
この定義は長くてイメージが掴みにくいと思いますので言いかえますと、工学は、多くの場合、理学と同じく自然界の法則を出発点とするものの、理学が自然界の法則がどのようになっているのか解明し、理解することを目的としている(知りたい!)学問であるのに対して、工学は自然界の法則を人間の役に立てることを目的とする(役立てたい!)学問です。ある名誉教授が言っておられた言葉を借りれば、理学は自然界の法則を作り出した神様に向かう学問、工学はそれを役立てる対象である人間を向いた学問です。このため、自然法則の理解に加えて、人間の認識・感情、集団での行動など、人文社会科学の知見が必要になることもあります。皆さんイメージが掴めましたでしょうか。
さて、多くの場合、自然界にあるがままの状態よりも、自然界にないものを創り出した方が人間の役に立てやすいので、工学が「ものづくり」につながるのは自然なことではあるのですが、必ずしも新しいものを創り出さなくても、すでにあるものを賢く使うとか、いらなくなったものを上手に捨てることなども重要であり、工学の対象となります。
例えば現在JAXAの打ち上げた「はやぶさ2」が小惑星リュウグウからサンプルを持ち帰ろうとしていますが、初代の「はやぶさ」では多くの故障に見舞われました。宇宙空間を飛行している「はやぶさ」のところに行って修理することはできません。そこで、太陽光の圧力を利用して姿勢制御を行うなど、故障した機器の機能を代替する方法をいろいろ考え出して、何とか無事地球に帰還させることができたのです。工学的アプローチの典型と言えるでしょう。
また、自然界の法則を人間の役に立てるためには、まず自然界の法則がどのようになっているのか知らなくては役立てることができませんので、それを解明することも工学の重要な一部です。そこで行われている研究は、見かけ上理学部で行われているのとほとんど変わりありません。違いは純粋に「知りたい」なのか、「知って役立てよう」なのかという、研究者の意識の持ちようと言えるでしょう。
それでは皆さんが工学部に進学したとして、卒業研究や大学院でどのような生活を過ごすことになるのでしょうか。学科や研究室によって、様々なケースがあります。
例えば、地方における過疎対策を考えるとか、海底に眠る資源の採取法を考えるといった分野では、フィールドワークと呼ばれる、現地での調査が重要な役割を担います。
一方、大学の建物の中に実験室を設けて、そこで既存のモノ(物質や機構)の解析や、新たなモノの作成を行っている研究室もたくさんあります。
最近増えているのは、デジタルツインと呼ばれるように、自然界に存在するモノのデジタルモデルをコンピュータの中に作成し、シミュレーションなどの技法を用いてその性質を解明したり、新たなモノを開発したりする手法です。ディープラーニングをはじめとする人工知能も広く活用されています。
これらの組み合わせやこれ以外の研究の進め方もいろいろあるでしょう。
このように、一口に工学といってもいろいろな分野があります。進学選択にあたって、単に点数だけで選ぶと、進学してから、思っていたのと全然違う、ということになりかねません。ぜひ各学科のホームページとか進学ガイダンス資料を参照して、それぞれの学科に進学すればどのような生活を送ることになるのか、また、卒業後どのような進路に進む人が多いかなどの知識をしっかりと得てから志望していただきたいと思います。
皆さんの活躍を期待します。

(副研究科長/電気系工学)

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