HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報609号(2019年5月 8日)

教養学部報

第609号 外部公開

<後期課程案内> 理学部

理学系研究科長・理学部長 武田洋幸

理学はホットでクール!
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/

理学は、自然界の普遍的真理を解明することを目指し、自然界に働く法則や基本原理を探求する純粋科学である(理学部憲章より)。「自然」と向き合って、背後に潜む真理や法則を追求するプロフェッショナルな集団が理学部です。小さい頃、夜空を眺め宇宙の遠くで起こっていることに想いを馳せ、野山に出かけて生き物の多様さに目を見張った経験はだれでも持っていると思います。実は私も含めて、そのような感動を今も持ち続けて、研究、教育に情熱を燃やしている知のプロフェッショナル集団が理学部なのです。ホットでクールと思いませんか。
自然現象は極めて多彩で、それらほぼすべてをカバーする数学科、情報科学科、物理学科、天文学科、地球惑星物理学科、地球惑星環境学科、化学科、生物化学科、生物学科、生物情報科学科の十学科で構成され、それぞれ先端的な研究を行い、それらに基づいて教育を行っています。理学の研究動機は、知的探究心(好奇心)です。物質を構成する素粒子から、細胞や生物個体、地球規模の生態系、そして宇宙へ、我々の探究心はとどまるところを知りません。探究心に基づいた研究は人類が営む崇高な創造的活動の一つで、人類の知性の根幹を成すものです。小柴先生(ニュートリノ、二〇〇二年)、梶田先生(ニュートリノの質量、二〇一五年)、大隅先生(オートファジー、二〇一六年)のノーベル賞受賞は記憶に新しいです。いずれも人類の知の地平を拡大する画期的な成果に対してであり、まさに理学の神髄というべきものでした。三名の先生は私たち理学部の先輩または一定期間理学部に在籍されていました。さらに一昨年のノーベル賞は、重力波を始めて検出した研究者へ贈られましたが、本研究科附属ビッグバン宇宙国際研究センターのキップ・カンノン先生はこの重力波検出に貢献したことで有名です。
残念ながら昨今は、すぐに役に立つ研究の方が重視される傾向があります。しかし歴史を振り返れば一見役に立たないと思われる理学の研究こそ、人類社会に強いインパクトを与えてきたことは明白です。即ち、自然への深い理解と知見によって、人類は自然観・宇宙観を深化させ、そしてそれらをシーズとして、人類社会を変革し、豊かにする科学技術を生み出してきました。例えば、ダーウィンの進化論が研究現場だけでなく人々の考え方を変え、量子論がエレクトロニクスの基礎を築き、地球の理解が身近な地震、気候温暖化の課題解決に役立ち、化学や分子生物学の発展が医療革命をもたらしました。一方、繁栄した人類社会は現在地球規模の多くの難問に直面しています。資源の枯渇、自然災害、環境破壊、気候変動などです。これらの問題に対しても、多様な切り口を持ち、事象を深く理解する理学への期待が高まっています。
理学部の附属研究施設には、木曽観測所(天文台、長野県木曽郡)、植物園(都内および栃木県日光市)、臨海実験所(神奈川県三浦市)などメインキャンパスから離れているものがあります。実は、理学の研究・教育活動は研究室の中だけには留まらないのです。南米チリ共和国北部にある理学系研究科附属天文学教育研究センターの天文台は、標高五六四〇mのチャナントール山の山頂にあり、天文台としては世界最高地点です。この場所で地上の望遠鏡からでは観測が困難であった赤外線を観測し、銀河や惑星の起源を探っています。現在さらに口径六・五mの大型望遠鏡(TAO, The University of Tokyo Atacama Observatory)の設置が進んでいます。このように理学のプロフェッショナル集団は、山の頂きから、水深数千メートルの海底・海溝、そして極地から熱帯地域まで、世界の果てまで、フロンティアを目指して活動しています。そこで活躍する理学部の学生や同僚の姿を見て、真理を追究するための飽くなき執念と情熱を感じ、理学部の一人として彼らを誇りに思います。
最後に理学の研究には国境がありません。学生の皆さんが行う研究成果も英語で世界へ発信されるでしょう。昨年十一月英BBCが選ぶ「ことしの女性一〇〇人」に理学部の大学院生、大小田結貴さん(物理学)が選ばれました。私たちの研究は世界につながっており、世界が注目しています。異質な文化に触れ、世界を肌で感じ、世界へ羽ばたけるような教育を実現するため、学部生、大学院院生を対象とした様々な国際交流プログラムを用意しています。
私は理学部の代表として、探究心に根ざした多様で息の長い研究をサポートしていきます。皆さん、ホットでクールなプロフェッショナル集団の一員として、新たな発見を求めて、理学の世界を探検しませんか。

(理学部長/生物科学)

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