HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報609号(2019年5月 8日)

教養学部報

第609号 外部公開

<後期課程案内> 農学部

農学生命科学研究科長・農学部長 堤 伸浩

持続可能な地球社会を支える農学
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/

農学部では、農業、林業、水産業、畜産業、食品産業における生産・加工・流通、さらにそれらを取り巻く社会科学的側面に関連する教育と研究がおこなわれています。また、都市や農村の景観あるいはイヌやネコのような伴侶動物など、私たちの生活の質の向上に欠かせない分野も対象としています。
近代農業は、多くの化学肥料や農薬を使うことにより収量を増加させる多投入・多収穫の農業を確立して安定した食料供給に貢献し、多くの人々を飢餓から救いました。これは、農学がこれまで果たしてきた大きな成果と言えます。ところが、この多投入の農業や無節操な農業開発が環境に与える影響が極めて大きいことが問題となり、地球環境に配慮した持続的な農業生産が求められるようになりました。現在の七二億人の世界人口は、二〇五〇年には九八億人に達すると予測されています。安全な食料の安定供給と地球環境の保全が人類にとって最大の課題であり、その解決に向けた技術的・社会的な対策を担う農学の役割は、ますます大きくなっています。
農学は、バクテリアや酵母などの微生物から高等動植物に至る多様な生物種の利用と自然環境の保全との調和を目指す学問領域です。農学には、生命科学、環境科学から、人文社会科学に至るさまざまな分野があり、それらが基礎と応用の両面で発展し有機的に結びついています。
生物は計り知れない機能を有しており、私たちが利用しているものはそのほんの一部に過ぎません。生物が有するさまざまな機能を解明し、人間社会の将来に役立てることが期待されているのです。環境問題や食料問題の解決に役立つ新たな機能を備えた生物を見いだし活用することも農学の役割です。つまり、農学は生物機能の活用を通して持続可能な社会の構築に貢献する学問と言うことができます。
農学部は、応用生命科学と環境資源科学、獣医学の三課程に、生命科学や化学、生態学、環境科学、工学、社会科学など、多様な学問分野を背景とした十四の専修を設置し、確かな専門性とともに俯瞰的な視座の養成を目的に、農学を段階的・体系的に学ぶためのカリキュラムを提供しています。それぞれの専門に関する講義や実習・実験だけではなく、食や環境、生物多様性、バイオマス利用など農学の対象を俯瞰する講義も用意されています。また、演習林や生態調和農学機構、牧場、水産実験所、動物医療センターなどの附属施設が充実しています。これらの附属施設は、産業の現場で生じている課題を体感し、講義で学んだ知識を課題解決に結び付けるための教育を支えるとともに、研究のフィールドとしても活用されています。
昨年度から、人類社会の持続性を確実なものにするためにさまざまな関係者と協働できる高い専門性を持った人材の育成を目指して、学部と大学院のシームレスな教育プログラムである「One Earth Guardians育成プログラム」を開始しました。このプログラムでは、生物界を地球の一部として捉えて、地球全体の健康を考えることが重要であり、健全な地球環境から得られる恩恵を将来にわたって人類が享受し続けるためには、さまざまな視点からの管理が必要であるという考え方に基づいており、実践力を高めるためのカリキュラムが用意されています。
本年度からは、大学院農学生命科学研究科で開講されている研究科共通科目を農学部在学中に履修し、大学院進学後に大学院の単位として認められる大学院科目等履修生制度を導入しました。ゲノム情報解析、生物統計学、分子モデリングなどの農学におけるデータサイエンスの理論と解析手法を習得するための「アグリバイオインフォマティクス教育研究ユニット」の講義群、行政や企業と連携した現場での活動を通じた課題解決型教育プログラムである「アグリコクーン」に関連した講義群などが、研究科共通科目として提供されています。
社会の要請に柔軟に対応できる能力を備えた優れた人材の育成と総合科学としての農学の発展に向けた私たちの活動に、多くのみなさんが参画してくださることを期待しています。

(農学部長/生産・環境生物学)

第609号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報