HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報611号(2019年7月 1日)

教養学部報

第611号 外部公開

<時に沿って> 中国近現代史研究はどこに向かえばいいのか?

中村元哉

二〇一九年四月一日に総合文化研究科地域文化研究専攻に着任した中村元哉です。専門は中国近現代史です。
私は、一九九三年に文科三類に入学し、駒場キャンパスの開放的な雰囲気のなかで、入学当初から関心のあった中国近現代史、とりわけ、その政治と思想の動向を少しずつ調べ始めました。しかし、私は、誰かに言われて何かをやるというのが極めて苦手な─とても自分勝手な─性格なので、中国語を第二外国語という制度のなかで身につける自信がありませんでした。そのため、留学生の方々に助けていただきながら、自分のペースで中国語を勉強することにしました。今から振り返ると、なぜここまで頑なだったのかと、恥ずかしく感じます。もちろん、卒業するためには、第二外国語を何か履修しなければなりません。そこで、あまり深く考えることなく某言語を選択したのですが、その言語は私の性格と能力ゆえにまったく身につきませんでした。しかし、この偶然の選択によって、今でも定期的に連絡をとりあう親友たちに出会えました。現在、この親友たちはそれぞれの企業で要職にあり、彼らと会話することで、自分の専門分野が国際化するだけでは不十分なのだということに気づかされます。つまり、中国近現代史研究からみえてくる中国の固有性や特殊性さえも、普通の言葉や汎用性のある枠組みに一度流し込んでから社会に向けて発信しなければならないのではないか、という課題を突きつけられているわけです。
もちろん私にも、学生時代から、このような要請に応えたいという気持ちは漠然とありました。私は、本郷キャンパスの文学部東洋史に進学し、史料を発掘し、それを読み込むことの大切さを学んだ後─少なくとも私の分野では実証主義が疎かになった場合、地域研究としての中国研究を日本から世界に向けて批判的に発展させることは困難だと考えます─、その実証主義を基盤にして、時代や地域を超越する普遍的な問いのなかで、あるがままの近現代中国像を浮き彫りにしてみたい、と考えるようになりました。だからこそ、修士課程と博士課程では学際性のある総合文化研究科地域文化研究専攻で研究に専念し、二〇世紀初頭から今日まで中国で争点化し続けている憲政に注目して新しい近現代中国像をどうにかして示したいと考えました。この試みは、専任教員として赴任した南山大学外国語学部アジア学科および津田塾大学学芸学部国際関係学科の学際性にも支えられながら、現在も継続中です。近年、編者となった『憲政から見た現代中国』(東京大学出版会)を含め三冊の学術書・一般書を公刊しましたが、親友たちにはまだ納得してもらっていないため、私の試みは成功していない、ということになります。そのため私は、この多様性に寛容な駒場キャンパスで試行錯誤を重ね、その実践の先に、中国近現代史研究を駒場から日本、そして世界に向けて発信していきたいと考えます。非力ですが、一歩ずつ努力したいと思います。

(地域文化研究/中国語)

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