HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報611号(2019年7月 1日)

教養学部報

第611号 外部公開

<時に沿って> 応援部からライシテ研究へ

伊達聖伸

二〇一九年四月、地域文化研究専攻(小地域フランス)に准教授として着任しました。宗教学をベースとして、フランスのライシテ(非宗教性または脱宗教性、政教分離、世俗主義)を中心に研究しています。前期課程の部会はフランス語・イタリア語部会になります。
一九九三年に文科三類の学生として駒場に入学しましたが、四半世紀を経てこのような形で舞い戻るとは思っていませんでした。学部時代は応援部に所属し、フランス語は第二外国語として選択しましたが、どちらかと言えば苦手科目。「フランス科」と呼ばれていた教養学部の後期課程に進むという発想はまったくありませんでした。進振で文学部の宗教学を選んだのも、応援部がある意味で宗教団体のようだと思ったから。本郷に進学してからも、駒場にはよく部活の練習で通いました。部室は駒場寮の明寮にありましたが、ちょうど廃寮になろうとしていた時期で、四年のときの部室はプレハブでした。
宗教学の修士課程に進学し、応援部で修養を積んだのはよいけれども自分には教養が欠けていると思い、明治後期から大正期の「修養から教養へ」という時代の知識青年にどこか自分を重ね合わせて、『一高校友会雑誌』を読みに本郷から駒場に通ったりもしたものです。当時図書館があった場所は、現在ではアドミニストレーション棟になっています。
今、駒場キャンパスを歩くと、こうして大きく様変わりしたところと、ほとんど変わらないところがあって不思議な印象に打たれます。学生の気質はずいぶん変わっているはずですが、雰囲気は似ているようで、容易に変わらない大学のカラーというものを感じるとともに、よさを引き出すために自分には何ができるだろうかと考えます。昔も今も東大には日本で最も優秀と言われる新入生が集まってくるはずですが、この四半世紀の日本社会を見ていて、あまりよい方向に変わったとも思えなかったりもするので。
その四半世紀を自分が生き抜くに際しては、遅まきながら出会って発見したフランス的知性にずいぶん助けられたところがあります。共同体には居心地がよいところもありますが病理もあり、それを切断する力を持つ共和国の理念には、個人を解放し支えてくれるところがたしかにあるからです。もちろん共和国の理念には負の帰結をもたらした歴史もあり、手放しで讃えることはできませんが、共和国フランスの歩みと深く結びついた「ライシテ」は、日本の大学で研究し教育するに値する一テーマと自負しています。
一見懐かしい駒場ですが、あまり勝手がわかっていません。古巣に戻るというより、未知の世界に挑戦する意識のほうが強いです。学部生の頃にはまったく知らなかった組織の複雑さ。院生の頃より耳にするようになった教員の忙しさ。戦々恐々としていたりもしますが、風通しがよく面白いことができそうだと、期待に胸を膨らませていたりもします。

(地域文化研究/フランス語・イタリア語)

第611号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報