HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報611号(2019年7月 1日)

教養学部報

第611号 外部公開

<時に沿って> 変な人

佐々木一茂

私は身体運動科学、特に筋肉(骨格筋)の生理学が専門です。前期課程では講義科目「身体生命科学」とバレーボール、スキー・スノーボードなどの実技科目、さらには理科二・三類生対象「基礎生命科学実験」の一種目(骨格筋の力学的性質)を担当します。
副題は私の息子(五歳半)がよく使う言葉です。息子がどこでこの言葉を覚えたのかはわかりませんが、他人を叱りたい時、注意したい時に「変な人!」と怒鳴るような感じで使っています。なぜこれを副題に選んだかと申しますと、私は駒場キャンパスの教員としてかなり変な(経歴の)人なのではないかと感じるからです。
まず、私はもともと理系でも体育専攻でもなく私大文系の出身であり、大学生の頃までは東大と無縁な人生を歩んでいました。思い返すと中学生の時に同じ部活の友人が駒場の近くに住んでいた関係で、渋谷や駒場東大前駅周辺でたまに遊んでいたのですが、当時は「駒場東大」という大学があるのかと思っていたくらい、東大に関心がありませんでした(後に駒場キャンパスで行われた学会大会に人生で初めて参加することになった際も、東大=本郷のイメージがあったため本郷キャンパスに行ってしまい、しばらく会場を探してウロウロした恥ずかしい思い出があります)。ただし、その後は駒場の大学院(総合文化研究科)に進学し、博士の学位もここ駒場で取得しました。
次に、前職のことを書きます。今年の三月まで、日本女子大学の家政学部被服学科という、これまたそれまでの私の人生では全く接点のなかった場所で教員として七年間働きました。女子大は、学生はもちろんですが教員も女性が多く、東大とは雰囲気が大きく異なります。また、これは私大と国立大の違い、そして規模の違いもおそらく関係していますが、学生の面倒見がとても良い、若手教員でも比較的責任の重い仕事を任される、などの点が特徴的でした。その是非は別として個人的には貴重な経験を積めた七年間でした。
最後に、実は私が駒場キャンパスで働くのはこれが二度目です。女子大に赴任する前の五年間、まさに今と同じ所属で教員(助教)をしていました。ですから、この「時に沿って」を書くのも二度目です(ちなみに一度目は第五〇三号に掲載されています)。退職した教員がまた戻る、それも私大(女子大)からというのは珍しいことではないかと勝手に思っています。少なくとも私は聞いたことがありません。なお、一度退職したのは任期制のためであり、嫌で辞めたわけではないことを申し添えます。
以上、ダイバーシティの重要性が認識されつつも、まだまだ同質性の高い日本社会において、あえて人と違う点を告白するのは勇気がいることですね。改めて、こんな私がお役に立てるのだろうか?という疑問も湧いてきましたが、研究と教育を高い次元で両立されている駒場の先生方のことですから、何か深いお考えがあって私を迎え入れてくださったのだろうと楽観的にとらえることにします。これからどうぞよろしくお願いいたします。

(生命環境科学/スポーツ・身体運動)

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