HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報612号(2019年10月 1日)

教養学部報

第612号 外部公開

東京大学芸術創造連携研究機構(ACUT)の発足について

河合祥一郎

今日、芸術に関しては文系・理系を問わずにさまざまな分野からの研究が進んでおり、またアーティストのなかにも、宇宙科学やAI等をはじめとする現代の知のあり方を創作の糧にしているひとが多く存在します。従来、東大内の各研究組織でも、外部から招いたアーティストによる実践的な創作活動と連携しながら、いろいろと独自に研究が行われてきましたが、残念ながらそれらの間の情報交換も相互理解も知見の共有も行われてきませんでした。そうした芸術関連ないし芸術創作関連の研究を、東大ビジョンにも謳われているような文理融合型の研究という視点から共同研究という形で深め活性化しながら、総合大学でのみ可能な、芸術に関する新たな知の獲得とその発信を目指そうとするのが、芸術創造連携研究機構(Art Center, The University of Tokyo, 略称ACUT)です。
総合大学という組織を活かしながら芸術創造の研究を行うため、総合文化研究科を中心として、医学系研究科、教育学研究科、工学系研究科、情報学環・学際情報学府、人文社会系研究科、数理科学研究科という全七部局が連携してこの五月に発足しました。
総合文化研究科では、平成二十九年度から「芸術創造と実技教育の研究教育システム」という形で、美術や写真、音楽といった分野でのアーティストと組んでの実技を伴う実践的な授業と研究、およびその教養教育へのさらなる環流を行っており、それはアドバンスト理科やグローバル・スタディーズなどと並んで、駒場の研究・教育組織上の柱のひとつともなってきました。芸術創造連携研究機構は、そのなかでもことに研究に特化した形で組織を立ち上げて、芸術創造に関する基礎的な研究を、学内のさまざまな知を結集する形で行おうとするものです。ジャンル横断的なアーティストを招いた共同研究を随時行いながら、それをシンポジウムないしワークショップという形で公表し、現代における芸術創作と組織内での芸術研究双方に利するような、社会連携を含めた外部に開かれた知の形を整えるための組織です。ゆくゆくは学生や教員による創作活動を技術的に支援し、科学技術を用いた共同教育研究の拠点となる「アート・ラボ」、芸術資源を収集・保存すると同時に公開・活用し、研究と創作を横断する価値創造を実現する「クリエイティヴ・アーカイヴ」、国内外の芸術家が滞在して創作活動を行い、本学の学術資源を可視化して世界に発信する「アーティスト・イン・レジデンス」といった活動を行うことによって、アートセンターとしての充実を図っていこうと考えています。
発足したばかりの機構ですが、すでに毎日新聞、日本経済新聞等で報道され、美術手帖の記事になるなど多くの取材を受け、社会的に高い関心が集まっています。今までに数回、運営委員会を開催して今後の活動形態を模索しており、参加教員も増えています。
また、六月には参加教員による研究発表会を開催して連携研究の可能性を模索しました。その内容を以下に記しておきましょう。
「芸術の触発と創造」岡田猛先生(教育学研究科)
「工学部共通科目「工学とデザイン」(東京藝術大学美術学部デザイン科との連携教育)」村上存先生(工学系研究科)
「アメリカの総合大学での芸術実技教育」新藤浩伸先生(教育学研究科)
「数学の可視化とアート」河野俊丈先生(数理科学研究科)
これは機構内に閉じた研究会でしたが、近々一般の学生・教員が参加できる形で、機構としての大きなイベントを開催する予定です。ご注目ください。
東京大学という大きな組織のなかで芸術に関するどのような研究が総合的に行われつつあるのかということを社会に知らせるために、いわば東大の外向けのアートの顔となっていくことが機構の大きな目的のひとつです。
新しい情報はウェブサイトで公開される予定です。https://www.art.c.u-tokyo.ac.jpをご覧ください。

2-1_学術フロンティア講義(Sound-Art Creation)カール・ストーン先生よる無響室での音響体験.jpg

学術フロンティア講義(Sound-Art Creation)
カール・ストーン先生による無響室での音響体験

(芸術創造連携研究機構長/超域文化科学/英語)



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