HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報612号(2019年10月 1日)

教養学部報

第612号 外部公開

<時に沿って> 新しい環境

阿部光知

今年度四月一日付けで、本学理学系研究科生物科学専攻より広域科学専攻生命環境科学系へ配置換えになりました阿部光知です。植物を材料にした分子遺伝学的アプローチによって、主に花成制御(植物が適切なタイミングで花を咲かせる制御機構)を中心とした発生現象の解明に取り組んでいます。着任当初は駒場の複雑な組織構造に日々混乱をしていましたが、ようやく慣れてまいりました。
さて、進学や職場の異動を機に新しい環境へと飛び込む経験は、多かれ少なかれ誰の人生にもおこりうることです。こうした環境の変化は、人によっては大きなストレスに感じられることもあるようですが、私個人はあまり苦手な方ではありません。おそらく、父親の仕事柄、転居が多い環境で育った幼少期の経験が影響しているように思います。
小田急線沿線に生まれた後、長野県の山間部で幼少期を過ごし、姫路市近郊、水戸市、東京文京区へと転校を繰り返しました。この間、通学した小学校は四校、七名の先生に担任していただいたのですが、入学してわずか三ヶ月で転校していった私のことを当時の同級生は覚えてくれているでしょうか?転校当日から、言葉も学校や遊びのルールも全く違う世界に突然放り込まれるわけですが、幸いなことに難しい状況に陥ったことはなく、小学生の私は新しい土地の新しい生活をありのままに受け入れていたように思います。
その後、中学、高校時代は都内に落ち着いていましたが、北の大地を選んだ学生時代以降は、京都で職に就き、二年間のアメリカ中西部での田舎暮らしを経て、再び京都へ舞い戻り、十年前に改めて東京生活を再開しました。ちなみに今の住まいは、人生で十五軒目の我が家ということになります。
腰の落ち着かない生活をしていることに改めて驚きますが、決して放浪癖があるわけではなく、引越しする必要性が生じた結果というのがなんとも不思議な人生です。一方で、親の立場になった現在では、親に付き合わせて我が子に大変な思いをさせているのではないかと自責の念がよぎることもあります。結果として長女は三つ、長男は四つの保育園を経験し現在に至りますが、将来どう思うことでしょうか。妻も転勤族の家庭で育ったこともあり、我が家にとっては、転勤、転校、異動に伴い新しい環境へ飛び込むことは、日常の一部とまでは言いませんが、あまり特別なことでも大きなハードルでもないことは確かです。
自らの経験を振り返ると、新生活をスタートさせることは、それまで作り上げてきた環境を失う一方で、過去を一旦リセットし、一から再構築する楽しさをもたらしてくれます。駒場での新生活が何をもたらしてくれるのかは、まだまだ分かりませんが、不安と期待を綯い交ぜにした毎日の中で、日々成長し、新しい何かを作り出していきたいと考えています。今後ともよろしくお願いいたします。

(生命環境科学/生物)

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