HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報612号(2019年10月 1日)

教養学部報

第612号 外部公開

<時に沿って> 新任と名乗るにはおこがましいが、、

石原秀至

今年の四月に広域科学専攻相関基礎科学系に准教授として赴任しました。とはいえ、その前の二年間も総合文化研究科・複雑系生命システム研究センターの特任准教授として講義も受け持ち、また、他大学・研究所をはさんで、院生時代、助教時代にも駒場にいましたので、駒場には随分長いことお世話になっています。そういうわけで新人と言うにはおこがましい。ただ、二年前に駒場に戻ってきたときには、学部の再編(統合自然科学科の発足)等もあり、また、立場が変わったからなのか、時代なのか、単に歳なのか、システムや教育のあり方がどんどん変わっていく、変わっていこうとしているという印象を持ちました。そういうわけで、フレッシュさがないわりには、馴染んでいるかと問われると、わからないことも多い。気負うわけでもありませんが、スタッフの一員として良い方向にもっていければ、と(そこは新任らしく?)思っています。
専門分野は、生物物理学の理論研究を行っています。生物物理学と言ってもその対象は広く、私自身は、非線形や非平衡物理をバックグラウンドとして、細胞や細胞集団を研究しています。実はもともとは生物学には「興味がある」くらいだったのですが、私が院生の頃にイメージング技術を始めとする観測技術の発展により、細胞内部で起こっていることが直接見られるようになり、複雑系の研究室にいたわりに根が単純な私は、実験をみて面白がったり感動したりと、この分野にのめり込んでいきました。ポスドクとして岡崎の基礎生物学研究所におり、日常的に実験家と多く話す機会があったことも大きかったです(当時は今ほど実験と理論の交流はなかった)。実際、世界的にも計測技術がすすみ、細胞レベルや組織レベルの現象が理論と比較できるようになってきた時期でした。現代の生物学は、(学校的な意味での)「生物学」という枠をこえて、様々なアイデアや技術が発展・交差する総合科学的な面があり、いろんな分野の人が参入し、考えても見なかったアプローチを見たり聞いたりするのが面白く、それが性にあっていたのだと思います。そのなかで、理論や物理で出来ることを考えたり、また、数理統計をとりいれた研究などを行ったりしてきました(深層学習以前の機械学習ブームが来る前でした)。このような研究スタイルになったのは、駒場の分野横断的な雰囲気に触れていたことが大きいかもしれません。今から思えば、知らないことでも比較的楽天的に始められたような。この先、さらにどんなことをするのか、できるのか。もちろん、いろいろ考えてはいるけれど、学生や他の先生との相互作用にも大きく期待しています。世の中は非線形で、先に何が起こるかわからんし、とどこかで思っているのかも。

(相関基礎科学/物理)

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