HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報612号(2019年10月 1日)

教養学部報

第612号 外部公開

<時に沿って> たかだか二年、されど二年

奥野将成

十六年ぶり二回目の駒場でのスタートである。学生の頃駒場にいたのは高々二年間で、決して長かったとは言えない。しかし、今振り返ってみると、その二年間が、研究でもプライベートでも現在に大きく影響している。駒場に准教授として研究室を持たせていただいたのは僥倖としか言いようがないが、駒場生時代にしっかり勉強しておかなければこの幸運はなかったのは間違いない。当時から十数年もたてば、学生さんもキャンパスも以前と異なっているのも当然であろう。事実、さまざまな建物が新たに立ち、食堂のきれいさ・メニューに目を見張ってしまう。しかし、この駒場には、受験が終わった緩和と進学選択・将来に対する緊張が混在した、独特の雰囲気が漂っているのは変わらないように感じる。キャンパスを歩いていると、空いている教室で自主ゼミをしていると思われる学生さんたちが目に入る。昔の自分と重ね合わせてこっそり応援してしまうとともに、現在の自分の不勉強を戒め、新たな学問を創造する気合を入れなおす日々である。自分を成長させてくれた駒場に研究・教育で少しでも貢献し、同時にこの二回目のスタートでも自分自身大いに勉強したい。
駒場を離れてから本郷で七年、ドイツで一年、筑波で六年ほど過ごし、研究としては分子分光学と呼ばれる物理化学の一分野に従事してきた。実験の中でレーザーや光学機器を扱い、ブロックのように実験系を組み立ててデータを出していく過程は、いわゆる化学っぽくはないかもしれない。思い返せば理科一類に入学した当初はエンジニア志望だったので、その辺りの嗜好が分光装置の開発へとつながっている気もする。では、それがなぜ物理化学を志すようになったかというと、一つのきっかけは駒場の先生方の講義であった。今の学生さんも同様でないかと勝手に想像するが、入学してしばらくすると徐々に講義に出なくなったが、化学に関する講義だけは比較的まじめに出席していた。化学で分子を説明する際の"なんとなくわかったようなわからないモヤモヤ感"に魅せられ、またそれをなんとかしたいと思い、今日まで化学の道を進んできた。少しモヤモヤが晴れた気がすると、新たなモヤモヤが目の前に現れ...と、一向に分子のことがわかった気にならない一方で、組みあげた装置できれいなスペクトルが取れたときに、ささやかな喜びを感じるのもいつまでたっても変わらない。
前期学部生の秋学期の講義では、ひとまず「構造化学」と「化学平衡と反応速度」を担当することになった。「構造化学」については、講義を受けていたときには思いもよらなかったことであり、まさか自分が講義する立場に回るとは、というのが正直な思いである。記憶が確かであれば講義内容は少しアップデートされているようだが、分子分光の実験家として、化学の面白さを余すところなく伝えたい。フレッシュでやる気のある駒場生の皆さんと講義等々の機会で関わり合いを持てることをとっても楽しみにしている。

(相関基礎科学/化学)

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