HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報617号(2020年4月 1日)

教養学部報

第617号 外部公開

東京大学2020年度 新入生のみなさんへ

総長 五神 真

1-1_五神総長_3A_5600.jpg新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。新型コロナウィルスの感染への警戒という特殊な環境下での入学試験となりましたが、日頃の学習の成果を発揮され、入学されましたことを心よりお祝い申し上げます。
さて、新型コロナウィルス感染症は瞬く間に世界全体に広がり、経済や社会へ大きな影響を与えています。その克服は途上ですが、この対応のなかで現代人の日常の活動や生産の仕組みが、いかに国境を越えたものなのかを皆さんも実感したのではないでしょうか。近年、自国第一主義を訴える指導者が目立ちますが、グローバル化はすでに後戻りできない状況にまで浸透しており、限られた地域の利害のみに目をむけた行動が、いかに無力であるかを示すものとなったことは間違いありません。
国境を越えて繋がるという現代の特徴は、デジタル革新が深く関わっています。スマートフォンの携帯はあたりまえになり、実世界での様々な情報がデジタル化され、それがサイバー空間に蓄積され、総データ量は指数関数的に増大しています。そうした大量のデータを、人工知能技術などを駆使して瞬時に解析する技術が急速に発達し、それを活用した様々なサービスも生まれています。皆さんも日々、手元のスマホでサイバー空間の情報を参照しながら、実空間での行動を決定しているのではないでしょうか。私達が暮らすリアルな空間、すなわちフィジカル空間はすでにサイバー空間と融合し一体になっているのです。
この変化は社会の姿をも、大きくかつ急激に変えつつあります。これまでモノが担ってきた経済上の価値は、データや情報を活用したサービスや知識の価値へとシフトしています。この知識集約型社会とも呼ぶべき新たな社会への急速な転換の中で、活躍するための原動力はまさに知の力です。その「激動」と向かいあうタイミングで、知を鍛える最適の場であるこの東京大学に入学された皆さんは大変幸運なのです。
さて東京大学は、創立から第二次世界大戦までの七十年、戦後の七十年を経て、さらに次の七十年、すなわちUTokyo3.0の時代に入ったところです。入学した皆さんがこれから学ぶ教養学部は、七十年前の戦前から戦後への大転換の中で誕生しました。敗戦の荒廃の中で日本社会は根本的な変革を求められ、大学も例外ではありませんでした。その新しい大学システムづくりを主導されたのが、戦後最初の東大総長、南原繁先生です。法学部長として多くの学生の戦地への出征を見送ったこともあり、戦後の日本と大学の再生に総長として大きな責任を感じていたのです。
エリートを育てるだけでなく、誰もが学ぶことができる高等教育の民主化の象徴が、全都道府県に配置した国立大学での教養教育でした。特に、東京大学では、それを新制度の中でしっかり位置づけるために、独立の学部として教養学部を新設しました。平和で民主的な文化国家の建設には、教養教育を通して広くグローバルな視野を持つ人材の育成が不可欠だと考えたのです。南原先生は旧制第一高校時代に、校長であった新渡戸稲造先生から「Doing(何をするか)の前に、Being(どういう人であるか)をしっかりと確立せよ」という教えを学びます。激動の今、そうした人格陶冶の教養教育が改めて重要になっているのです。
さて、大学入学という節目は、今までの延長ではなく、いったんリセットして、これからの自分の人生について、白紙の状態からじっくり考える絶好のチャンスなのです。ではどうすれば良いのか、二つのアドバイスをしておきたいと思います。
一つ目は、自分と違ったバックグラウンドを持つ、多様な人々と意識的に関わり合うことです。自分とは異なる他者を尊重し、共に学ぶ姿勢を身につけて欲しいのです。私の場合は駒場のクラシックギターサークルで、出身や専門、考え方が異なる友人たちと出会ったことが、その後の大きな財産となりました。先生方に対しても、遠慮せずにどんどん質問してください。長年学問と向き合っている姿から学べることも多いはずです。二つ目は、外の世界での活動に積極的に参加することです。国内だけでなく日常では触れにくい実際の世界の姿に接し、海外で世界を実感できるプログラムも沢山用意しています。是非在学中に、最低一回はそれを体験することを勧めます。入口となる国際総合力認定制度Go Global Gatewayという制度に、まず登録をして下さい。また、PEAK(Programs in English at Komaba)というコースの英語講義はPEAK生以外の学生の受講も歓迎しています。皆さんが自分自身で自分の未来像を選び、グローバルに活躍をする備えとして将来大いに役立つはずです。
皆さんは人類がこれまで経験したことのない激動の時代を生きることになります。是非、変化を恐れるのではなく、チャンスと受け止め、激動を存分に楽しんでほしいのです。そして、東京大学のキャッチコピーである「志ある卓越。」に向けて、元気に学びを楽しんでゆくことを願い、お祝いの挨拶を結ぶことにいたします。

(東京大学総長)

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