HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報617号(2020年4月 1日)

教養学部報

第617号 外部公開

東大生よ、大志を抱け! (2020年度新入生のみなさんに贈る言葉)

教養学部長 太田邦史

1-2_太田学部長_A4A9269.jpg新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。弛まぬ努力の末、今日を迎えた皆さんを、私ども教職員は心より歓迎し、二年間に及ぶ駒場の生活を有意義に送って頂けるよう、精一杯サポートしていきたいと考えております。
昨年、教養学部は創立七〇周年を迎えました。教養学部前期課程(一〜二年次)の前身は旧制第一高等学校(一高)・旧制東京高等学校という我が国屈指のリーダー養成機関でした(「高校」といっても今の高校とは異なり、今の東大以上に入学が難しい教育機関だったようです)。一高の時代から駒場では、専門的な勉学に移行する前に幅広い知識を習得し、リーダーとして不可欠な人格を涵養することが伝統的に重視されてきました。このような考え方はギリシャ時代から欧米でも重視されていて、「リベラル・アーツ」と呼ばれています。
この「リベラル」とは何でしょうか。「人間に自由を与える」こととされています。つまり基本的な知識に加え、知の普遍的な方法論を身につけ、答えのない問題を解決したり、解決すべき問題を自ら設定したりする能力を得ることで、人間は真の意味で「自由」になれるというのです。教養学部前期課程は、この「自由」を皆さんに獲得してもらうことを目指しています。これに加えて、学問的な知識だけでなく、高潔な品性や世界を支えていく志を育むことも重視されています。
リベラル・アーツを標榜する本学の教養学部には、大きな特徴があります。それは、この学部が一つの学際的な専門課程を有する学部であり、一〜二年生を対象とした初歩的な学問を教える「教養部」とは本質的に異なることです。教養学部には、前期課程に加え、他の学部と同様の専門後期課程(教養学科、学際科学科、統合自然科学科)、さらに大学院総合文化研究科があります。教養学部の教員は、他部局と同様大学院に所属しており、それぞれの専門分野で最先端の研究を行う我が国を代表する研究者です。高度な専門性・先進性を有する教員が、幅広い分野の同僚と連携し、専門分野の垣根を越えた新分野の創成を目指して研究を行っています。そのような先進的な研究を行う教員が、一〜二年生の教育にも関わり、学生の知的探究心に刺激を与えることを目指しているのです。皆さんはある意味で、贅沢な教育環境に身を置いているといえます。(欧米の一線の研究者のほとんどは研究だけに専念していて、初年次学生の講義はほとんどしませんので、これは本学の教育における長所の一つです。)
昔は、他の国立大学でも前述の「教養部」というのがあり、教養教育を行っていました。それが、政府の規制緩和がきっかけで、今から三十年前頃にほとんど絶滅してしまいました。教養学部は日本では希少な存在で、本学だけが教養学部を守ったのです。どうしてでしょうか。おそらく一つの理由は、前述の通り本学教養学部が後期課程や大学院を有する一つの専門学部として存続してきたこと、もう一つは、将来リーダーシップを取る人材には真の意味の「教養」を培ってほしいと本学関係者が考えたからだと思います。
現在では、教養教育の復活が巷間に謳われていますが、東大は長い冬の時代でも、ずっと教養教育を磨き上げてきました。駒場の教養教育は老舗として一本筋が通っていながら、絶えず進化してきたのです。たとえば、「アドバンスト理科」という科目では、量子コンピューターのプログラミングを行って最先端科学に触れることができます。「初年次ゼミ」という少人数の討議型プログラムも用意されています。「国際研修」や「FLYプログラム(一年間の海外武者修行)」などを活用して、海外での活動を行うこともできます。
昨今は人工知能やブロックチェーン技術、ゲノム編集など、技術面で人類は大きな飛躍を遂げようとしています。当然この先社会も大きく変わっていくでしょう。そのような変革の嵐を生き延びて行くには、単なる知識の集積では間に合いません。広範な領域に及ぶ知識を総合して、新たな真理への道筋を自ら切り開く力、そしてリーダーシップに必要な人徳と志を、できるだけ早い時期に獲得しておくことが必要です。
皆さんはこの春から教養学部の授業を受けて、自分の目指す専門分野と関係ないことを勉強する理由を訝しむかもしれません。実は私もそうでした。しかし、社会に出て齢を経ると、教養時代の勉強がとても大切であったことがわかってきます。教養学部での活動(課外活動も含みます)を通じて、皆さんの人間の枠を拡げて、ぜひ「自由」と「志」(できれば大志!)を自分のものにしてほしいと思います。そして、将来駒場での体験を活かし、一人一人がこの世界に貢献する輝く人材に育って頂きたいと願っています。
Freshers, be ambitious!

(総合文化研究科長/教養学部長)

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