HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報617号(2020年4月 1日)

教養学部報

第617号 外部公開

東大の入試は公平でしょうか?

瀬地山 角

ご入学おめでとうございます。私は駒場でジェンダー論の講義を担当している教員です。東京大学に授業が何万あるのか知りませんが、間違いなく全学で女子の履修者が一番多い講義だと思います。そうした観点から発言をさせてください。ここでそもそも「オレには関係ないや」と思った男子学生のみなさん、いまの東大のような「男子校生活」を望んでいる人は少ないでしょ?みなさんにこそ関わる話なので、ちょっとおつきあいくださいね。
昨年の入学式での上野千鶴子さんの祝辞が話題になったことは多くのみなさんがご存じのことでしょう。なぜあれほどまでに話題になったか、わかっていますか?東大の男子学生が持つ「特権性」に、当の男子学生が無自覚であることが、告発の原点なのです。みなさんは東大入試の客観性に疑いを持っていないでしょう。もちろん不正など一切ありません。でもだとすれば、どうして女子が二割しかいないのでしょうか?それは女子が男子に比べて優秀ではないからですか?
表は中京圏のある公立高校の二年分の合格者数です。まず名古屋大学合格者のデータを見てください。現役では女子が多いのに、浪人になると極端に少なくなります。そして東大は十八人中女子がわずかに二人です。これを見てどう思いますか?まず現役の名大合格者が女子の方が多く、かつ東大・京大が少ないとなると、これは東大を受けたら通ったかもしれない女子が、名大に回ったと考えられます。この学校は名大の通学圏にあるので、「女の子は親元で」という考えが働いていることがわかります。たかだか新幹線で一時間半の距離なのに。そして浪人になると、どの大学でも極端に女子が少なくなるので、これは「女の子は浪人できない」という制約があるということになります。
もちろん名大は立派な大学ですし、そこに優秀な学生が進学することは望ましいことです。ただ女子にだけより強くそうした縛りがかかるとすれば、これは女子が男子と比して教育投資の対象となっていない、もしくは能力の限り勉強してよいと、いわれていないことの証左といわざるを得ません。
ジェンダー論の講義では、「自分より優秀な女子がクラスに一人いて、でも地元の国立大学に行った」とか、「私は浪人させてもらえてこの場にいるけど、友達は浪人は絶対ダメだったので志望校を下げた」といった話をたくさん聞きます。その場にはいない女子高校生たちの悲鳴です。さきにあげた高校の事例は日本中で起きているのです。
首都圏の、特に中高一貫校から来た新入生のみなさんは、こうした制約を受けず、むしろずっと励まされて勉強を続けたはずです。そしてみなさんの努力が評価されて入学をした、そのことは間違いありませんが、そもそも日本社会にはみなさんと同じように優秀でも、みなさんと同じスタートラインに立たせてもらえない女子がたくさんいることを、理解してほしいのです。
そのための対策としてまずは女子学生の母校訪問を増やしてほしい。帰省時に出身の高校に行って東大の宣伝をすれば、少しお金がもらえるという制度です。東大が特別な大学ではなく、努力をすれば手が届く場所だと思ってもらうとても重要な機会です。そしてこの問題についてさまざまな学内団体が発信しています。東大新聞を中核にして情報共有をしつつ取り組んでほしいと思います。
このままでは東大は、どんどん首都圏の上層中産層ばかりが集まる「地方の」国立「男子大学」になってしまいます。欧米だけでなく、北京大学やソウル大学でも女性比は四割以上です。日本と世界にさまざまな人材を送り込むことを使命とする大学にとって、これは大きな危機なのです。
昨年度も東大の男子学生による性犯罪事件が起きてしまいました。性暴力や性的マイノリティに関しては、学生団体が優れた指南書を作ってくれたのでガイダンスの時にお渡ししたはずです。さらに今回オリエンテーション委員会が、東大女子を排除するサークルのオリ参加を認めない決定をしたことは、私たちも高く評価しています。男子学生のみなさん、女子が居心地の悪い思いをしないキャンパスを作ることで、来年の男女比を変えられるはずです。
こうした東大の現状に疑問を持ったみなさん、私の講義も覗いてみてください。そしてジェンダーとセクシュアリティに関して平等なキャンパスを作るために、手を貸してください。

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(グローバル地域研究機構/中国語)

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