HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報618号(2020年5月 8日)

教養学部報

第618号 外部公開

〈後期課程案内〉 工学部

工学系研究科長・工学部長 染谷隆夫

工学は、夢を描き、未来をつくる
http://www.t.u-tokyo.ac.jp

工学は、人類の福祉、健康、安心・安全のために新しいモノやコトをつくる学問体系です。時代とともに変化する社会の要請に応えるため、工学は常にダイナミックに生まれ変わってきました。工学を含むすべての学術分野における第一歩は、対象を調べ、整理し、理解することです。この一連の作業を探求と言います。そして、探求する人をリサーチャーと呼びます。工学は、探求だけにとどまりません。では、探求の先には何があるのでしょうか。それは、夢です。探求して得た知を活かし、夢を描いて、未来をつくる人が、エンジニアです。
エンジニアは、どのように「夢を描いて、未来をつくる」のでしょうか。夢とは、今はできていないけれども、人びとが実現を待ち望んでいることです。例えば、災害をなくしたい、交通事故をゼロにしたい、クリーンエネルギーを実現したい。いずれも多くの人びとの夢でしょう。人びとの夢は、時代とともに変化します。変化する人びとの夢を捉え、その夢を叶えるための道筋を示すことは、未来の設計図を描くような作業です。
社会における変化のスピードが増す中、社会のニーズを聞いてから未来の設計図を描き始めていては、いつでも対応がワンテンポ遅れてしまいます。そもそも社会のニーズを聞くといっても、まだ存在もしないものを「これ下さい」と相手から求められることはまずありません。エンジニアが夢を実現してはじめて、「そうそう、私の欲しいものはこれだったんだよ」となるのです。この意味において、エンジニアは、未来を予測する仕事といえます。しかし、予言者のように座して成り行きを見つめる人というわけではありません。この際に、後追いにならない唯一の方法は、「未来はこうあるべきだ」と自ら考えて、自らの意思で行動し、人びとに未来の姿を先に示すことです。
ラボで原理実験に成功してから社会で本格的に活用されるまでに、十年以上を要することも珍しくありません。つまり、十年後に皆が当たり前に恩恵を受けるものを、エンジニアの誰かがいま生み出そうとしているのです。そのエンジニアは、世界の誰よりも先に未来を見ることができるのです。そして、自らが未来をつくり出していると実感できるのです。これこそがエンジニアの最大の喜びであり醍醐味であるといえます。
エンジニアは、未来をつくる仕事ですから、未来への責任があります。人間の欲望には際限がないといわれているものの、結局のところいつの時代も幸福の基本はそう変わりがありません。平和で、健康で、そして家族や好きな人と毎日の暖かい食卓を囲む。そんな当たり前の幸せも、限られた地球資源のもとでは、すべての人に行き渡らせることができません。富の偏在、さらに富の源泉である情報を含むリソースの独占は、社会的、政治的、経済的な不安定さを助長しています。そのため、世界中で分断が拡がり、争いや不正が繰り返されています。私たちは、今という時代を生きる者の責任として、より良い未来を次世代に残すことが何よりも大切です。限りある地球資源を大切にし、環境に負荷を与えずに、サステナビリティ(持続可能性)を第一に考えること。これが、より良い未来を次世代につなぐための必要条件といえます。
現代社会が直面する問題は、差別や貧困、気候変動、社会の超高齢化など複雑さと困難さを増しています。もはや一人の天才や一つの優れた技術でそれらを解決することは不可能です。ですから多くの知恵を集めることが必要なのです。色々な経験や多様な価値観をもつ仲間がたくさん必要なのです。人間の多様性を尊重し、そして一人ひとりの個性を活かして新しい社会を作り上げていく。そのために、私たちは全力でダイバーシティーの推進に取り組んでいます。
社会の要請に応えるため、エンジニア教育も現代的なものにしていく必要があります。数学のような基礎科目、人工知能などの情報科学、ゲノム編集に代表される生命科学、そしてアントレプレナーシップ、コミュニケーション、ファイナンスなどの新科目。これらは、いずれも未来をつくるエンジニアに必要なものです。さらに、eラーニングやアクティブ・ラーニングの手法を取り込み、学びたいときに学びたい科目をバランスよく履修できる教育環境も整備しています。
一口に工学といっても、いろいろな分野があります。どの学科に進学すれば何が学べるのか、また、卒業後の進路がどうなっているのか。ぜひ各学科のホームページや進学ガイダンス資料を参照してください。きっとあなたの夢に近づくためのヒントがあるはずです。あなたの夢は何ですか?夢を実現する方法はひとつではありません。夢は無限であり、その実現方法も無限です。未来をつくるエンジニアの前には無限の可能性が広がっています。さあ、私たちと一緒に工学を学び、未来への扉を開きませんか?

(工学部長/電気系工学)

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