HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報619号(2020年6月 1日)

教養学部報

第619号 外部公開

<時に沿って> きっと僕は心配性

岡地迪尚

令和二年四月に総合文化研究科・国際社会科学専攻の准教授として着任しました。二年前にPh.D.を取得したばかりでまだ研究者・教育者として未熟者ですが、精一杯頑張り、研究と教育を通じて社会に貢献していきたいと考えております。本学に至るまでの経歴で特殊な点を一つ挙げると、様々な大学や機関に属してきたということだと思います。これまで学生として四つの大学に属し、二つのインターンを経験し、社会人として三つの機関で働きました。その意味で、様々な視点から研究や教育に活かせるのではないかと思っております。
さて、私の専門は経済危機です。中でも財政・金融危機を中心に研究しております。現在日本の公的債務残高が一千兆円を超え、今後も少子高齢化による社会保障費の増大を主因に益々財政状況の悪化が見込まれています。そのような状況にある中、仮に財政を起因とする経済危機が起きたとき、どのような政策を行えば厚生損失を最小化することができるのか、という問に解を見出すことを最終的なテーマにすえ一歩一歩研究しています。
このようなテーマを選んだ理由は、私が生まれてからという短い時間軸でも社会が多くの危機に直面してきたという事実に起因します。初めて社会の危機を感じたのは、小学三年生のときに起きた阪神・淡路大震災です。当時滋賀県に住んでいたため、震源地からは距離がありましたが、そのときの社会の混乱は鮮明に覚えています。その後、すぐに地下鉄サリン事件が起きました。子供ながらに私を取り巻く世界や環境というものはそんなに安定的ではないという感覚を抱きました。その後も社会は幾多の危機に直面します。二〇〇一年同時多発テロ、二〇〇八年世界金融危機、二〇一一年東日本大震災とそれに伴う原発事故、などです。二〇二〇年四月現在においては、COVID-19によるパンデミックが世界を覆い、日本では緊急事態宣言が出されている状況です。
私は他の人よりもきっと心配性なのかもしれません。これまで何度となく危機が起こっているのだから、これからも何度となく危機が訪れるのだろうと思っています。火種はいくつもあります。温暖化に伴う異常気象、AI・ナノテクノロジーなど先端技術の暴走・悪用、格差・不平等の拡大に伴う社会の不安定化、北朝鮮の動向、米中対立など、枚挙にいとまがありません。
これら危機の火種に対して、私自身が全て取り組むのは不可能です。私が取り組むのは社会事象の中の経済危機というほんの一部分だけです。ほんの一部なのだから、これぐらいは私の人生の本分として取り組もうと思っております。他の事象は、東大の優秀な学生が今後様々な局面において活躍することで成し遂げてくれると期待しています。学生の中の誰が、次のパンデミックが起きた時にいち早くワクチンを開発し多くの人の命を救うでしょうか。学生の中の誰が、二酸化炭素の排出を減らすような技術を開発するでしょうか。学生の中の誰が、外交官として世界平和に資する活躍をするでしょうか。学生の中の誰が、理不尽なまでの不平等がない世界を実現するでしょうか。東大という環境で、研究に勤しみ、かつ学生を育てることが出来るのは大変幸甚です。

(国際社会科学/経済・統計)

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