HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報619号(2020年6月 1日)

教養学部報

第619号 外部公開

<時に沿って> フィールドが教えてくれる国際関係

鈴木早苗

はじめまして。四月から駒場でお世話になることになりました。学部と大学院でお世話になった駒場に微力ながら恩返しができればと思っています。駒場に来る前は,日本貿易振興機構アジア経済研究所の研究員として、東南アジアの国際関係を研究していました。この研究所は、発展途上国の政治・社会・経済などを研究対象にしており、随分とさまざまな国を訪問し、調査を実施する機会を得ました。日本の外の世界をみてみたいという気持ちは高校時代からありました。教養学部時代には,駒場の留学制度AIKOMでイギリスに留学する機会を得て、ヨーロッパを回りました。外交官に憧れていましたが、この留学で研究が面白くなり、研究者の道に進むことになりました。その後、アジア経済研究所の派遣で、インドネシア、マレーシア、デンマークに赴任する機会があり、近隣国だけでなく、アフリカ諸国などにも調査に出かけました。現地(フィールド)に出向き、そこに住む人々の暮らし方や社会のあり方、政治・社会制度の違いなどを学ぶことができました。こうした学びは,私の研究に生かされています。EUを出発点として、国際関係論のなかで、地域統合・地域機構をテーマに取り組んできました。この分野は,地理的近接性のある国家同士がどのように協力して地域の問題に取り組んでいるかを様々な角度から分析します。単位は国家であっても、その協力の行く末を決めているのは、究極的にはそこに住む人々です。一国家では解決できない地域の問題とは何か、どのような対処・政策が適切なのか、そうした政策をどうやって決めていくのか、など、様々な点で、世界の各地域は異なった答えを出しています。そうした違いは、往々にしてそこに住む人々の考え方が反映されています。たとえば、物事の決め方。何かを決める場合、東南アジアの人々は全員が納得することを重視する傾向があり、国家間で何らかの協力をする際にもそうした考え方が反映されている部分があります。現地に行き、話を聞くことで自分が想定していたものとは全く異なる考え方や、それに付随する新たな知見を得ることは、私にとって地に足のついた国際関係を実感できた瞬間でした。そうした経験を経て、自分が描いていた議論を修正することもしばしばありました。学び・研究の対象は、案外私たちの身近なところとつながっているのかもしれません。私たちの物事の捉え方、考え方、価値観はどのようなところから影響を受けて形成され、また、どのようなところへ影響を及ぼしているのでしょうか。そんな問いにつながるような講義に気を配りたいと思っています。研究を主な仕事にしてきた私にとって、大学での教育は新しい挑戦です。学生の皆さんの協力を得て、国際関係論・東アジアの国際関係といったテーマに一緒に取り組んでいけたらと思っています。授業では,海外で入手した小話を用意してお待ちしています。

(国際日本研究教育機構/PEAK)

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