HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報619号(2020年6月 1日)

教養学部報

第619号 外部公開

<時に沿って> 学び続けられる場所

藤岡俊博

四月に総合文化研究科・教養学部に着任いたしました。地域文化研究専攻(小地域フランス)に所属し、授業としては、おもに前期課程のフランス語と、後期課程のフランス研究コースの科目、大学院科目を担当する予定です。専門はフランスの現代哲学で、特にエマニュエル・レヴィナスという哲学者について研究をしています。最近はより広い意味での思想史にも関心を持っています。
前職は滋賀大学経済学部です。平安情緒の残る大津市の自宅から、井伊直弼や「ひこにゃん」で有名な彦根市にあるキャンパスに通っていました。休日には、琵琶湖岸を南下して瀬田川洗堰を渡り、石山寺の前を通って瀬田の唐橋を西詰から戻ってくる十一キロを、ジョギングのコースにしていました。毎年三月はじめに開催される「びわ湖毎日マラソン」を沿道で応援したこともあります。
この春に、豊かな自然と深い歴史に彩られた滋賀県から、七年振りに東京に戻ってきて、タイムスリップしたかのような不思議な感じを抱いています。それは大都市の激しい変化に驚いたからではなく、見知らぬ建物がいくつ建ってもなお駒場が持ち続けている、ある種の「変わらなさ」を早くも感じとったからかもしれません。
私は一九九九年に文科三類に入学し、後期課程では地域文化研究学科、大学院でも地域文化研究専攻に進学しました。二年間のフランス留学を経て、博士課程を修了したあとも、特別研究員等の身分で所属していましたので、駒場キャンパスには十二年間も通った計算になります。
私にとって、駒場とは、いつまでも「学び続けられる場所」です。駒場に籍を置いていたどの時期を振り返ってみても、先生方や先輩はもちろん、同期や後輩のなかにも、自分より思考の働きが鋭く、豊富な知識を持ち、好奇心の旺盛なひとが大勢いました。先生方の専門や対象地域も幅広く、独特なカリキュラムの仕組みもあいまって、文理を問わずさまざまな知の最先端に触れることができます。駒場という場所では、古代から現代に至る歴史の流れや、世界のあらゆる地域間の布置が、時空間的にダイナミックに運動しているような気さえします。私が哲学のテクストを研究対象とする際に、哲学者が身を置く時代や社会の様相、他の学問領域との関連性にも注意を払おうとするのは、間違いなく駒場で学んだからにほかなりません。
そのうえ駒場には毎年、三千人もの新入生が入学してきます。学生さんたちの新鮮なエネルギーが、そのつど固定観念や既得の常識を揺さぶってくれるようです。
駒場で教壇に立つのははじめてですので、駒場の学生さんから学ぶのは新しい経験です。オンライン授業もまったく未経験で、手探りの初年度になりますが、教室で学生のみなさんとお会いできるのを楽しみにしつつ、自分も新入生のような気分で、もう一度、駒場で学び始めたいと思っています。

(地域文化研究/フランス語・イタリア語)

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