HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報619号(2020年6月 1日)

教養学部報

第619号 外部公開

<時に沿って> まずは落ち着いて最初の一年を

上 英明

二〇二〇年四月に駒場に戻りました上英明です。専門分野は国際関係史で、主に米・キューバ関係をフィールドに研究を進めております。
これまでの研究上の問いは、なぜアメリカ合衆国とキューバという二つの国が半世紀にもわたって対立しつづけたのかというものでした。国際政治でいう力やイデオロギーではなかなか説明できない。では国内政治かというと、キューバ政府に反対する勢力が合衆国内で活発に動くとはいえ、彼らの主張と実際の合衆国の政策はかけ離れている。
そこでいろいろ見てみようということになり、人の移動と国家間外交という二つの鍵概念を軸に、新しい形の国際関係史を描こうと試みました。海外留学と博論執筆を経て、どうにかDiplomacy Meets Migration: US Relations with Cuba during the Cold War(Cambridge, 2018)という単著を出すまでに至りました。
ところが、本が一つ出て得たものは、満足感よりも、やり残したことへの想いでした。もともと中南米研究では手つかずのテーマや問いが多く、北米研究との境目に落ちているトピックとなれば、ますます数知れず。どこから着手すればいいかわからないぐらいで、どうしても悩みが深くなります。
こうした状況で研究の原点である駒場に戻って参りました。前職の神奈川大学では主に北米史を教えておりましたが、これから駒場で担当するのは中南米史になります。ああ困った、どうしようと慌てふためきながら、授業ノートをゼロから作っております。苦しみつつも、新しい研究の問いが芽生えることを期待しています。
実をいうと、所属するフィールドが変わることは、これがはじめてではありません。教養学部時代にわたしが所属したのは中南米科でした。ところが、大学院に入ると所属先がいつのまにか北米科に移っていました。外交とか、移民とかいうテーマを学ぶうちに、越境行為を働いていたのです。
こういうことをしてもそれほど怒られない駒場の懐の深さは、駒場の外に足を踏み出してから気づかされます。すでにご退官されている古矢旬先生や高橋均先生をはじめ、中南米研究と北米研究という二足の草鞋を踏む私を温かく見守ってくださった駒場の先生方には感謝の気持ちしかありません。
その駒場に戻ったからには、今まで以上に縦横無尽に走り続け、恩返しをしたい。しかし、着任前には、前代未聞のウイルスとの闘いが始まり、着任初日には、あまりのメールの量に圧倒され、少し気が滅入ってしまいました。
また、自分自身も今までのように体が無理を聞かず、小さい子供を育てる身としてもまだ未熟さが目立つばかり。こういう状況ですので、まずは落ち着いて最初の一年を過ごしたいと思います。
みなさまには長い目で成長を見守っていただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

(地域文化研究/スペイン語)

第619号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報