HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報619号(2020年6月 1日)

教養学部報

第619号 外部公開

<時に沿って> 激動の東京へ

加納純子

「こんな時にラボの引っ越しだなんて大変ですね。」百人中百人の方がこう言ってくれます。二〇二〇年四月六日、ラボの引っ越し作業のために大阪に向かう新幹線の中でネットニュースが飛び込んできました。「安倍首相、明日七日にも緊急事態宣言か。」OH, MY GOD!とムンクのように叫んでいる暇もなく、駒場キャンパスの建物に引っ越し業者が出入りできるギリギリのラインでラボの引っ越しを終えることができました。その間、(仕方なく)東京─大阪を連続二往復しましたが、新幹線の中や駅が日に日に変貌していくのを目の当たりにしました。四月六日の時点では普段よりちょっと客が少ない程度だったのが、九日の新大阪駅では構内のほとんどの店が閉まり、駅弁も販売していない、車内は一両に客が数名程度という、まるで映画のようでした。その異様な情景を私は一生忘れないでしょう。
このような激動の時代に、四月一日付で総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系の教授に着任しました。前所属の大阪大学蛋白質研究所では独立准教授としてラボを運営しており、このたび指導大学院生と共に駒場へやってまいりました。ゲノムDNAとタンパク質などから構成される染色体という構造体、その中でも特に末端部分のテロメアとサブテロメアに着目して研究を行なっています。染色体末端がどのような構造をとり、それが様々な生命現象にどのように寄与しているのか、また進化の過程でその構造や機能がどのように変化してきたのかということを明らかにしようとしています。共同研究などの機会がありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。
私にとって駒場キャンパスは教養学部時代以来のなつかしい場所です。駒場の思い出と言えば、生物学実習です。ミミズの解剖では、うなぎのように串打ちされた細い体にこんなにたくさんの器官がちゃんと詰まっているのかと鳥肌が立ったのを覚えています。また、確か公害病に関するビデオを観る実習で感動のあまり涙してしまったこともありました。これから私が行う講義や実習でも、小さな感動を学生に与えられたらいいなと思っています。また、十五号館前のテニスコートで私は学生時代毎日テニスをして心身を鍛えました。真冬に七号館横の恐ろしく汚い池に飛び込み(サークルの幹部引退の儀式)、守衛さんにこっぴどく叱られたこともありました。テニスの合間に授業を受けていたという表現がぴったりな学生でしたので、まさか何十年か後に授業をする方の立場になるとは想像していませんでした。自分の若い頃の経験を活かして、授業中いかにして学生を眠らせないかということを常に考えながら、面白く魅力的な授業をしていきたいと思っています。
今年は一体いつから正常な授業ができるのやら、、という感じですが、キラキラ輝く学生さんたちと授業で会えるのを楽しみにしています。

(生命環境科学/生物)

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