HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報620号(2020年7月28日)

教養学部報

第620号 外部公開

<本の棚> 成田憲保 著 『地球は特別な惑星か?  地球外生命に迫る系外惑星の科学』

鈴木 建

一九九四年の夏学期、教養学部前期課程の学生として、私は「宇宙科学Ⅰ」という講義を受けていた。六月ぐらいになってくると、数百人の学生で満ち満ちた講義室は熱気と湿気でむせかえり、汗をダラダラ流しながら、ビッグバン宇宙や星の進化に関する板書された式たちをノートに書き写し、時には寝汗をかきながら悪夢にうなされていたことを思い出す。時は流れて二十数年、私はこの「宇宙科学Ⅰ」を受け持つことになった。講義の大半はプロジェクタで行うようになり、板書は補助的に使うだけになった。講義室の空調はよく効き、梅雨や酷暑の時期でも、学生さんは快適な環境で講義を受け、時には快眠ができるようになった。そして今年は、三百名を超える受講生への自宅からのオンライン講義である。
これだけでも目紛しい変化を感じることができるが、何といっても大きな変化は講義の内容である。一九九四年当時の講義内容の大半が、新しいものに入れ替わってしまった。一九九四年には、宇宙の加速膨張も実証されていなかったし、重力波も直接観測されていなかった。そして今回紹介する「地球は特別な惑星か?」で扱う、太陽系の外にあり他の恒星の周りを周回する惑星、略して系外惑星も発見されていなかった。
恒星を周回する系外惑星がはじめて発見されたのは、一九九五年のことである。そして現在までに、四千個を超える系外惑星が発見された。本書の著者である成田さんは、二〇〇〇年代前半に大学院生として系外惑星の研究を始め、揺籃期にあった系外惑星科学の分野を牽引してきた天文学者である。本書では、最初の系外惑星の発見に至る歴史から研究分野として大きく開花した現在までの、系外惑星科学に関する研究の最前線が、分かり易く説明されている。
水金地火木土天海という太陽系の惑星達とは全く異なる特徴を持った系外惑星系も、これまで数多く見付かってきている。そもそも一九九五年に発見された最初の系外惑星が、中心星の非常に近くを周回するホットジュピター(灼熱木星)である。なんとその公転周期は四・二日、つまり四日ちょっとでこの惑星の「一年」がめぐる。こんな惑星は、我々の太陽系にはもちろんない。
他にも面白いところとして、二つの恒星から成る連星の周りを回る惑星なんてのも、複数発見されている。映画スター・ウォーズに登場する二つの太陽を持つ惑星タトゥイーンにちなんで、これらはタトゥイーン型惑星と呼ばれているそうだ。
太陽系の惑星達は全て、中心の太陽の自転(太陽も実はくるくる回っているんです)と同じ方向に公転しているが、系外惑星の中には逆向きに公転する逆行惑星も複数見付かっている。そして著者の成田さんは、逆行惑星を初めて発見したことでも有名である。最初の逆行惑星の発見の報告は、三つの国際研究チーム間の競争と協調の末、三チームが「ほぼ同着一位」となった。その顛末が、実際に研究チームを引っ張ってきた研究者ならではの迫力の筆致で解説されている。
系外惑星を見付けるためには、天体力学やドップラー効果、そして一般相対論的な重力レンズ効果といった物理学の知見に基づく、天文観測が行われる。多数の系外惑星が見付かってくると、次は惑星の大気にどのような種類の分子が存在するのかという、化学の研究もできるようになってきた。そして最近では、系外惑星に存在する生命の兆候を捉えようという、生物学の研究にも取り組まれている。本書もそのような研究の流れに沿い、最終章のテーマは系外惑星のアストロバイオロジー(宇宙生物学)である。アストロバイオロジーは、研究領域ができ上がりつつある非常に新しい学問分野で、教科書に載るような固まった結果はまだほとんど無いのだけれど、ワクワク夢一杯である。
さて、本書のタイトル「地球は特別な惑星か?」の答えはイエスかノーか?...... それは本書をよく読めば、分かります、多分。著者の成田先生は、四月に駒場に着任されました。本を読んだ上でもっと知りたくなった駒場生は、直接質問すれば、快く答えて頂けます、多分。

(広域システム科学/宇宙地球)

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