HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報620号(2020年7月28日)

教養学部報

第620号 外部公開

<時に沿って> 人生の「点」を繋いで

大関洋平

皆さん、はじめまして、二〇二〇年四月から総合文化研究科言語情報科学専攻に着任しました大関洋平と申します(一応「おおせき」で濁りません)。専門は、言語学・計算認知科学で、自然言語の計算モデルを理論的に構築し、行動・脳活動データで実験的に検証しています。ここでは、自己紹介に代えて、アップル社の創設者である故スティーブ・ジョブズ氏の言葉に習って、これまでの人生の「点」を繋いでみたいと思います。
高校時代は、理系のコースに所属し、数学の教員を目指していました。定理の証明が好きで、スピード勝負で解かなければいけない計算は嫌いだったので、成績は良く無かったのですが、そんな中ある参考書に出会いました。『思考訓練の場としての英文解釈』という知る人ぞ知る(数学では無く)英語の参考書です。その参考書は非常にマニアックで、英語も因数分解の構造を持つと書かれていて、当時の僕は「数学よりも英語の方が複雑で面白そう」と思い、高校三年ギリギリのタイミングで文転し、英語の教員を目指すことにしました。
大学時代は、言語学のゼミに所属し、英語だけで無く日本語やアイヌ語を対象として、認知文法という言語理論を学びました。まだ英語の教員を目指していたので、専修免許を取得するため大学院に進学しようと考えていましたが、当時のアドバイザーが(話すと長くなりますが)理不尽な理由で大学を辞めなければいけなくなりました。この逆境に対する反骨心も相まって、大学三〜四年頃には言語学者になることを決意し、アドバイザーの勧めで北海道大学の修士課程に進学することにしました。
大学院時代は、言語学を専攻していながら、当初チョムスキーの名前さえ知らなかったのですが、『統辞構造論』を読んだ瞬間に、高校時代に抱いた知的好奇心を満たす学問はこれだという強い直感を持ち、生成文法という言語理論に没頭しました。そのまま博士課程に進学しようと考えていたのですが、アドバイザーや他の様々な研究者の影響を受けて、アメリカ留学を決心しました。修士課程までは、専ら理論研究を行っていたのですが、一年間訪問学生として過ごしたマサチューセッツ大学アマースト校で、実験研究への興味に火が点き、博士号を取得したニューヨーク大学では、言語学だけで無く、心理学・神経科学・自然言語処理を含む学際的な計算認知科学のトレーニングを受け、現在の研究スタイルが確立しました。
この様に振り返ってみると、紆余曲折ありましたが、理系から文系への転換、認知文法から生成文法への乗換、理論から実験への展開など、全ての「点」に意味がある様に思えます。二〇二〇年度は、新型コロナウイルスの影響で、全面的にオンライン授業・ウェブ会議という異例の幕開けになっていますが、東京大学で新たな「点」を作り、また数十年後に改めて繋いでみるのを楽しみにしています。どうか今後とも宜しくお願い致します。

(言語情報科学/英語)

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