HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報620号(2020年7月28日)

教養学部報

第620号 外部公開

<時に沿って> 十年目の駒場

結城笙子

今年四月一日付で身体運動科学研究室の助教に着任いたしました。結城笙子です。専門は行動神経科学で、授業は体育実技、PEAKの講義と実技の一部を担当します。
本記事の副題を"十年目の駒場"としました通り、私は学部入学から、二年前に学位を取るまでの計九年間を駒場で過ごしました。ですので、駒場に通うのは今年で丁度十年目になります。そのため非常に慣れ親しんだキャンパスではありますが、教員一年目としていざ臨むとこれまでとはまた違った景色であるようにも感じ、背筋が伸びる思いです。
前期課程教育への抱負としては、学生が生涯にわたりスポーツに親しみ、その心身の健康を保っていくきっかけとなるよう、人間の身体やスポーツに関する正しい知識を伝えるとともに、受講者全員が生涯スポーツの意義を理解した上で楽しんで実技に取り組み、受講後も自発的に取り組みたいと思えるような経験を提供していきたいと考えています。
また、スポーツ実技というのは学生に自身の身体の性質や認知メカニズムについて考えていただく良いきっかけになると思います。例えば一対一の球技の試合において、相手が実際にボールを打ち切ったのを目視してから動作を開始しても多くの場合は反応が間に合いません。そのため、相手がどこに打つかを予測して先回りして動く必要があり、また自覚的ではなくとも実際にそう行動している一方で、この予測的な運動制御は本人が意識していなくても生じるために、ついフェイントにひっかかってしまう、といった体験はスポーツ実技の授業を通して多くの方に共有してもらうことが可能です。このように、ある事柄について一度は実際に経験した上で、その最中に脳や身体では何が起きているのか、またそれらの作動機序はどうなっているのかを解説するという順序で授業を展開することで、学生が科学的な見地からの運動と身体の関係に興味を持ち、理解を深められるようにしていきたいと考えています。
研究については、私はこれまでラットとヒトを対象に、統制された環境下での条件づけされた行動の適応制御に注目してきましたが、今後は歩行や姿勢などの生得的な運動制御に関わる適応機能にも視野を広げ、より一般的な行動制御のメカニズムとその神経表象を研究し、さらにそこで得られた知見を授業にも反映させていきたいと考えています。
ここまで、自分を鼓舞するという意味も込めて今後への抱負を述べさせていただきました。まだまだ至らない部分も多くあるかと思いますが、これらの抱負が絵に描いた餅とならないよう、職務に邁進していく所存ですので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。


(生命環境科学/スポーツ・身体運動)

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