HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報620号(2020年7月28日)

教養学部報

第620号 外部公開

<時に沿って> お世話になります。

今泉允聡

二〇二〇年四月より着任しました、今泉允聡です。所属は先進科学研究機構と広域科学専攻・相関基礎科学系で、准教授として研究室を開きました。研究分野は統計学・機械学習で、近年よく耳にするデータサイエンスやAI技術の基礎的な側面を探究しています。特に最近は、深層学習の数学的な理論の構築を進めています。
十三年前の二〇〇七年四月、私は前期教養課程の学生として、初めて駒場キャンパスに足を踏み入れました。当時、家庭と高校以外の場所をあまり知らなかった私にとって、大学生コミュニティが作る独自なシステムと、大学で展開される幅広い文化的活動は、非常に新規で刺激的でした。どうやら目移りしやすい性である私は、色んなサークルやら学生団体に顔を出し、本郷に進学して大学院に入った後も、定期的に駒場に足を運んでいました。
目が移ろいやすいという性質は、私の専攻の選択にも現れました。理一に入学した私ですが、その後の進振り及び修士入学それぞれで専攻を変えて人文系と社会系の学問を専攻し、最終的には博士課程で統計学を学んで東大での教育課程を修了しました。専攻を変えるたびに、その分野の常識に追いつくのが大変で苦労しましたが、行く先々で良き師に恵まれて生き延びてこられました。卒業後は統計数理研究所という国立の研究所に勤め、その後異動して今に至ります。
今振り返ると、私のその遍歴は(大学という組織内に限られているとはいえ)、自分が納得して探究できる領域を探索し続けた結果だったと感じています。例えば「現象が構造化できるか(法則性が見つけられるか)」「研究方法が独善的でないか(研究界隈がよく開かれているか)」「新しい成果が出せるか(解ける問題が残っているか)」などの価値観が私の中に存在し、それに則って研究分野を移り続け、最終的に今の研究分野に落ち着くことになりました。結果論ではありますが、この逍遥のおかげで現在の興味深い研究トピックに巡り合うこともでき、飽きることなく楽しい研究人生を送れています。
そして、この私の遍歴を可能にした大きな要因の一つに、駒場での教養課程があります。言うまでもないことですが、駒場は幅広い学術分野の研究教育活動が展開されています。大学に入ったばかりの私にとって、分野を問わずどんな領域の活動にも簡単にアクセスできたという事実は、分野間移動に対する心理的障壁を大いに下げました。もし教養課程が無かったら、私の人生(研究者とは限らない)は全く違ったものになっていただろうと予想しています。
あれから十三年、また駒場に関われることを大変嬉しく思っています。責任の重さは常に感じていますが、学生さんに良い影響を与えることができるよう、また私自身ここで新しい発見に巡り合えるよう、頑張っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

(相関基礎科学/先進科学)

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