HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報620号(2020年7月28日)

教養学部報

第620号 外部公開

<時に沿って> 見えない力

新津敬介

二〇二〇年四月一日付けで、総合文化研究科広域科学専攻に助教として着任いたしました新津 敬介(あらつ けいすけ)と申します。学部から博士課程まで過ごした千葉大学では、有機化学を専門に研究を行ってきました。
おそらく大学入学時の自分に現在のような状況を伝えたら非常に驚くと思います。当時の自分には明確な目標があるわけでもなく、化学が面白そうという理由で当時の学科を選択したので、助教になるなんて夢にも思っていませんでした。もともと小・中学生の頃から理系の科目が好きで、理科の授業で行う実験で溶液の色が変化するのを見たり、普段扱えない試薬を扱ったりすることにワクワクしていました。高校に入り、物理・化学・生物・地学に細分化された授業の中でも化学の授業が一番ワクワクしました。実際に目には見えない有機反応をパズルのように考えているのが楽しかったです。当時の恩師が、「有機化学は自分の作りたいものが作れて自由で楽しい」とおっしゃられていたのを今でも覚えています。このような経験から大学でも化学を学びたいという意識が芽生えていました。
ただ単純に化学が面白かったという理由で大学に入学した後、講義とテスト勉強やアルバイトに明け暮れる日々を過ごしていました。そんな中、学科の先生の紹介で、学部三年生の時iGMEという国際大会に参加する機会を得ました。iGMEは自分たちでデザインした遺伝子を大腸菌に入れて、かっこいい機能を持ったタンパク質をつくるという大腸菌版のロボコンのような大会でした。私にとって講義による座学とは全く異なる「研究」に初めて触れることができた絶好の機会でした。自分たちのアイデアから研究を遂行して、それらをまとめて発表するという一連の流れを経験し、そのおもしろさを感じました。また、世界の優秀な同世代の学生に感化され、研究者を目指すきっかけになりました。研究室配属の際、遺伝子のデザインではなく、自らの手で分子をデザイン・合成したい、という気持ちから有機化学を選択しました。
学部四年生の時に研究室に配属されてから、自分の作った分子が有機溶剤中で分子間の弱い力によってどのように集合していくかという研究をしてきました。分子のデザインをほんの少し変えるだけで、劇的に分子間の作用が変わるため、それらを予想して分子デザインを改善するという日々が続きました。目には見えない分子がどのように関わり合っているかを研究室のメンバーと話し合うことがとても楽しかったです。それから六年間、研究室の自由で楽しい雰囲気の中、研究活動を行ってきました。その過程で出会った先生方や先輩、後輩、友人たちに助けてもらい、励まされながらここまでくることができました。
振り返ってみると、行き当たりばったりのような生き方をしていますが、そのような中でも様々な人からのご縁によってここまできていることがわかります。これまで全く縁のなかった東京大学に着任できたのも、なにかのご縁だと思っています。研究だけでなく、こういった見えない縁も頼りにこれからも歩んでいきたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。

(相関基礎科学/化学)

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