HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報620号(2020年7月28日)

教養学部報

第620号 外部公開

<時に沿って> 駒場キャンパスの日常

間瀬崇史

二〇二〇年四月に数理科学研究科の助教に着任しました。専門は応用数学で、特に離散可積分系というものに興味を持って研究をしています。
離散可積分系を一言でわかりやすく説明するのは難しいのですが、数列漸化式のような離散的な方程式であって、非線形にも関わらず非常に「良い」性質を持っているものだと思ってもらえれば大きな誤解はないかと思います。微分方程式など連続系の場合でもそうですが、非線形方程式は扱いが非常に難しく、大抵の方程式はまともに解析することができません。しかしごくまれに、非線形にも関わらず非常に良い性質を持つ方程式があり、そのようなものを可積分系と呼びます。可積分系の背後には何らかの数理構造が隠れていることがほとんどですが、方程式の形を見ただけでそれを判断することは容易ではありません。離散的な方程式に対して、それが可積分であるかどうか判定するための手法が、研究テーマのひとつです。
今回、私は形式的には着任という形になるようですが、二〇一六年から特任助教としてずっと駒場にいましたので、既に一年生の数学の演習や学修相談室で見たことがあるという人もいるのではないかと思います。何なら十数年前の学部入学以来ずっと駒場に通っていますので、私にとって駒場キャンパスは日常の一部であり、残念ながら新鮮な気持ちも懐かしさもほとんど感じることはできません。
東大に入学した当時、私が一番興味を持っていたのは化学や生物でした。もちろん数学や物理などその他の学問に興味がなかったわけではありませんが、私が入ったのは理Ⅰではなく理Ⅱでしたし、学部入試の理科も生物・化学で受験しました。しかし、入学して授業を受けていくなかでやりたいことが増えていき、進振りの最終的な希望を出す際、多くの選択肢の間で非常に悩んだことを覚えています。結局、当時一番やりたかったのが数学だったうえ、駒場が家から比較的近かったのもあって、悔いなく決断をすることができました。
進振りは東大に入学した以上基本的に避けられないものであり、この制度を負担に感じる学生もいることと思います。しかし、それなりの数の学生が入学当初の進路を変更しているのも事実のようです。私の場合も、もし進振りがなければ間違いなく数学を専攻することはなかったと断言できます。もちろんそれはそれで悪くない人生だったかもしれませんが。いずれにせよ、自由に生きている限り進路変更は原理的にいつでも可能だとは思いますが、進振りは比較的スムースに大幅な進路変更ができる最後のチャンスでしょうから、数多くの選択肢を十分検討したうえで、自らの手で決断をしてほしいと思います。
この文章を書いている現在でも、未だに駒場キャンパスには入構制限がかかっています。私も駒場には二ヶ月以上行っておらず、皮肉なことに、学部入学以降初めて長期的に駒場キャンパスから離れたのが、助教として着任したときだったという結果になってしまいました。状況は少しずつ良い方向へ動いているように見えますが、完全にもとのキャンパスに戻るのはまだまだ先の話でしょう。どのような形になるのかはわかりませんが、Aセメスターに駒場キャンパスで皆さんに会えることを願っています。

(数理科学研究科)

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