HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報621号(2020年10月 1日)

教養学部報

第621号 外部公開

<時に沿って> 「駒場の社会学」の魅力

坂井晃介

二〇二〇年六月一日付けで、国際社会科学専攻の助教に着任いたしました。専門は社会学理論(ニクラス・ルーマン)・歴史社会学・福祉国家論です。現在は十九世紀後半のドイツにおける社会国家の形成過程を人びとが抱いた理念から明らかにすることに取り組んでいます。
私は早稲田大学で学んだのち、国際社会科学専攻相関社会科学コース修士課程・博士課程を経て学位を取る二〇二〇年二月まで、留学していた一年半を除けば八年近くを駒場で過ごしました。当初は強いアウェイ感を感じていましたが、最近になってようやく、二号館やよく夏に蚊に刺されながら本を読んで過ごした矢内原公園などに愛着を感じています。
相関社会科学コースで社会学を学んだ際強く感じたのは、先生方も学生も「おもしろいこと」に常にアンテナを張っているということでした。「その方向で研究を進めてしまうとおもしろくなくなっちゃうねえ」「おもしろいアイディアだけど悟りが足りないね」といった言葉が飛び交う状況下で、ルーマンの社会システム理論の研究から入った私は完全に自信を失っていました。そもそも何をもって「おもしろい」とみなせるのかが全くわからなかったからです。先生方・学生の研究テーマは非常に多岐にわたっていましたが、研究仲間と切磋琢磨することにやりがいを感じつつも、彼らの鋭い視点・コメントや「おもしろい/おもしろくない」の応酬に少し消耗していました。
転機になったのは日独共同大学院プログラム(IGK)によるマルティン・ルター大学ハレ・ヴィッテンベルクへの留学でした。客員研究員としての留学だったので、受入教員とプログラムのゼミに出席するだけで、あとは自分の関心に関わる先行研究のレビューや資料収集・読解に集中し、博士論文の根幹に関わる理論的視座について研究を進めました。駒場の磁場から一定程度解放されることで、重要な研究課題だと考えることを自分の中で明確化することができました。帰国後も他大所属の院生・研究者による研究会に参加することで、バランスを取りながら研究を進めました。
これにより、駒場の社会学の「おもしろさ」とその魅力も、かえって見えてきました。ここで「おもしろい」研究とは小手先で気の利いたことを言ったり華麗な文体で社会の説明を先送りにすることでは全くなく、社会学や隣接分野の専門性を熟知した上で、なお適切に対象化されていなかった問いを立て、特定のディシプリンの枠内にとどまらずに複数の道筋から回答を与えようとする際に見出されるものなのです。逆に言えば、そうした専門性があってはじめて、駒場の社会学が志向するインターディシプリナリーな「おもしろさ」に接近できます。留学中に社会学の理論的・方法的専門性について深く向き合い、ようやくこのことに気づくことができました。
助教として、こうした魅力的な「駒場の社会学」を可能にしている国際社会科学専攻を支える一員となった今、この「おもしろさ」がどのようなしくみで成り立っているのかをうまく伝え広め、実践していくことが、私の重要な使命の一つだと思っています。

(国際社会科学/社会・社会思想史)

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