HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報621号(2020年10月 1日)

教養学部報

第621号 外部公開

<時に沿って> 大学と研究所 それぞれでの経験

深堀信一

二〇二〇年六月に相関基礎科学系(化学系)の助教として着任いたしました深堀信一と申します。昨年二〇一九年の四月より先進科学研究機構の特任助教を務めさせていただいておりました。引き続き先進機構にも所属させていただきます。駒場キャンパスには学部一、二年生の頃通っており、昨年着任した際には九年ぶりに戻ってきたことになりました。その間は理学系研究科化学専攻(理学部化学科)におりました。学部四年生の時から研究室に所属し、学位を取った後も、二年間特任研究員を務めておりましたので、その研究室では八年間を過ごさせていただきました。
私は、分子が強いレーザー場にさらされたときに生じる現象を調べています。普通、分子と光の相互作用を考えるときには、分子一個と光子一個の相互作用を扱います。このとき、量子力学の近似法として知られる時間依存の摂動論を用いることができます。一方、私たちの扱っている強いレーザー場、つまり光子数密度が非常に高い場合には、分子一個に対して、より多くの数の光子が相互作用し、摂動論による扱いは難しくなってきます。見方を変えると、光電場によって分子内の電子の受ける力の大きさが電子と核の結びついている力の大きさに匹敵する、ないし、近づいている状況です。これは非摂動論的に取り扱う必要があります。こうした強いレーザー場と分子が相互作用すると、分子の構造変形、配列、イオン化、解離など様々な過程が引き起こされることが知られています。
学部四年生の頃から今に至るまで、この分野での研究を続けてきましたが、その中では様々な研究テーマに取り組んできました。それが可能だったのも、量子科学技術研究開発機構関西光科学研究所や理化学研究所光量子工学研究センターでの研究も行う機会をいただけたからでした。こうした研究所の研究グループにおける環境は、大学の研究室における環境とは異なるものです。研究所では周りはプロの研究者の方々がほとんどになります。大学院生のときに関西研で研究をさせていただいた際、研究のスキルのみならず研究者としての姿勢なども学ばせていただきました。一方、大学では、先生方からも多くのことを学ばせていただいたことはもちろんのこと、大学院生同士でディスカッションして得ることも数多くありました。このように大学と研究所、それぞれの良さがあります。また、八年間、所属してきた化学専攻の研究室はスタッフメンバー含めて三十人前後の研究室でしたが、今駒場で所属している研究室は、十名に満たないグループです。このような様々な研究環境での経験が、私の糧になっています。
特任助教から専任助教になったことによって、これまでは担ってこなかった研究以外の用務にも関わらせていただくようになりました。これまでの経験を活かしつつ、また新しい経験も積ませていただきながら、研究教育活動に邁進していきますので、今後ともよろしくお願いいたします。

(相関基礎科学/化学)

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