HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報621号(2020年10月 1日)

教養学部報

第621号 外部公開

<時に沿って> 三度目の駒場にて

永田利明

二〇二〇年六月に広域科学専攻・相関基礎科学系に助教として着任した永田です。五月まで東北大学でポスドクをしていましたが、三年と少しぶりに駒場に帰ってきました。
私が最初に駒場の人間になったのは二〇〇七年四月、教養学部理科一類に入学したときでした。当時はいくつかの分野に興味を持ち、進学振り分け(現在の進学選択)では化学系と情報系で悩んでいました。そして理学部化学科へ進学し、いったん駒場から離れました。本郷キャンパスで修士課程まで金属酸化物ナノ粒子の光学物性を研究しましたが、自分の扱っている物質の素性について考えれば考えるほど分からなくなってしまい、より根源的な研究対象を求めて、博士課程進学の折に駒場に戻ってきました。研究対象は変わりましたが、案外それまでの知識や技術が色々な形で役に立つものです。ポスドク期間を含めて四年間在籍し、その後東北大学に移りました。そして今回三度目の駒場に戻ってきた次第であります。
私の専門分野は物理化学で、主に「クラスター」と呼ばれる物質を研究しています。世間では残念ながらこの半年ほど間に「クラスター」という言葉の意味が大きく変わってしまいました。新型コロナウイルス感染症の蔓延で、感染者集団のことを単にクラスターと称することが多くなり、ニュースではネガティブな意味合いで用いられます。クラスターとは、何かが集合したもの全般を指す概念です。化学の世界は原子や分子を基本としますが、通常これらは多数が寄り集まった集合体として存在します。集合体としての性質を知るためには、構成要素となる個を見るだけでなく、集合体としての働きを見てやる必要があります。有限個(だいたい数百以下)の原子や分子からなるクラスターは最小の集合体としての性質を持ち、単分子の化学とマクロスケールの化学を繋ぐ研究対象です。
以前の世の中では、クラスターという語は共通する趣味や学問領域で緩やかに繋がった人々の集団を指すことが多かったと思います。大学にはこうした人と人との繋がりを育む場としての役割があり、活動制限下でこのような機能が幾分損なわれている現況をとても心苦しく思っています。このような状況ながら、これから駒場で皆さんとともに学問を展開していくことを楽しみにしています。私は今年の五月までポスドクでしたので、ほぼ自分の研究だけをしていればよく、自由奔放に過ごしていました。今後は助教として、教育についての務めを果たさなければなりません。ことに駒場の教員としては、大学一年生から博士後期課程まで幅広い属性や年齢層の学生と関わることになるでしょう。多くの学生に影響を与え得る立場として責任は重大です。この大学で過ごす学生たちの学びを少しでも豊かにすべく、できる限り取り組みたいと思います。どうぞよろしくお願い致します。

(相関基礎科学/化学)

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