HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報622号(2020年11月 4日)

教養学部報

第622号 外部公開

金曜特別講座ーオンラインによる新たな高大連携教育のかたち

新井宗仁

教養学部主催「高校生と大学生のための金曜特別講座」では、高校までの基礎教育と大学からの専門教育の間をつなぐ「進路選択のための教育」の推進を目指して、主に高校生や前期課程の大学生を対象にした講義を行っている。二〇〇二年の開始以来、今年で十九年目、開講回数は四百回を超えた。企画立案は社会連携委員会が行い、登壇するのは主に教養学部の教員、運営は教員のボランティアで行っている。
金曜講座では、駒場会場への来場者(平均百五十名、内訳は高校生6割・社会人3割・大学生1割)に向けてのみでなく、二〇〇四年からは全国の高校にもオンラインでリアルタイム配信を行っている。昨年度は約六十の高校の教室等で、合計数百名の生徒たちが受講した。講義後の質疑応答にもオンラインで参加でき、教員も驚くような鋭い質問がとびかうことで、全国の高校生同士も互いに刺激を受けているようだ。このような特異な取り組みは文部科学省からも注目され、昨年は文科省の遠隔教育担当者らによる取材もあった。
日本では科学技術基本計画において、目指すべき未来社会の姿としてSociety5・0を提唱している。これは仮想空間と現実空間を高度に融合させた社会のことであり、文科省はその実現に向けICT環境の整備を進めている。昨年度は児童生徒全員にPCを整備するGIGAスクール構想が予算措置された。また、大学間を結ぶ学術情報ネットワークSINETを全ての小中高校(二万校)に導入する計画もある。こうした整備のあとに重要となるのが配信するコンテンツであり、金曜講座はその好例と期待されている。昨年度は総長裁量の経費、今年度はFSI基金からのご支援をいただき、今後は遠隔教育におけるグッドプラクティスとして金曜講座を成長させていくことが目標だ。
そのような矢先、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって緊急事態宣言が出され、大学の授業がすべてオンライン化された。急遽、金曜講座も高校生と東大生向けのオンライン配信のみとし、自宅で受講可能にするためにZoomウェビナーでの配信に切り替えた。その作業のために、予定していた一、二回目の講義は日程の変更を余儀なくされた。しかし、成長し続ける若者たちにとっては、どんな状況であっても教育は必要である。また、コロナ後の新しい世界を創っていくのは今の若者たちだ。我々はこれまでのオンライン配信の経験を活かして、何としてでも教育を継続しなければならないと考えた。
四月後半、全国の高校からオンライン配信の申込が殺到した。高校では、休校中でも生徒に提供できる優良なオンラインコンテンツを探していたようだ。配信先の高校数は五月初めには百六十に達した。受講方法はメールで高校の先生方に連絡し、生徒たちに伝えてもらった。
新方式での初回の配信は、緊急事態宣言中の五月八日だった。講師も司会も裏方も受講者も、それぞれの自宅から仮想空間の教室にアクセスした。当初、定員三千名で契約していたZoomウェビナーは開始前に満員になり、急遽YouTubeでもリアルタイムで配信した。最終的な受講者数は約五千名であった。講義終了後、質疑応答が始まった途端に百名近くの高校生が手を挙げ、全ての質問に対応するために予定を二時間半も超過したが、コロナ禍の中でも懸命に学ぼうとする高校生たちの熱意に感銘を受けた。
その後、全国で休校が解除されはじめ受講者は少しずつ減っていったが、平均して約千名が受講し、Aセメスターに入ってからも受講希望校は増え続け、配信先は三百校を超えた(全高校の6・6%に相当)。リカレント教育の推進のため、現在では社会人向けのオンライン配信も一部開始している。十月には本学の生命科学シンポジウムとのコラボ講演会も実施した。また、駒場祭前日の十一月二十日には、五神真総長がご登壇され、「光と物質の新たな出会い~光科学の最前線への招待」と題してご講演される予定である。多くの東大生にも受講してもらいたい。
一方、今後の課題も多い。とくに最大の懸案事項は、来年度以降の運営資金の獲得である。また、教員への負担を増やさずに講座を発展させるためには、他学部との連携も必要である。さらに、地方からの進学者を増やすための取り組みや、オンライン教育の新たな可能性の模索も行いたい。
最後に、今年度オンラインでご登壇いただいた坪井貴司先生、大塚修先生、ウィロックス ラルフ先生、岡田康志先生、戸谷友則先生、桝田祥子先生、土屋和代先生、馬路智仁先生、大泉匡史先生、國分功一郎先生、池内与志穂先生、渡邊淳也先生、鎌倉夏来先生、井上純一郎先生、水島昇先生、十一月以降にご登壇予定の吉岡伸輔先生、岡地迪尚先生、五神真総長、木田良才先生、昨年度までにご登壇くださった約四百名の先生方、及び、いつもご支援いただいている皆様に心から感謝申し上げます。とくに、ここ数年の発展は、太田邦史教養学部長のご支援の賜物です。本当にありがとうございます。引き続き、皆様のご協力をお願い申し上げます。

(生命環境科学/物理)


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