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最終更新日:2021.02.03

教養学部報

第623号 外部公開

<駒場をあとに> 駒場キャンパスの思い出

豊島陽子

本年八月、静まり返ったキャンパスの強い日差しを遮る木々の下を歩きながら、いろいろな想いをめぐらせた。私が教養学部基礎科学科第一の教員として着任したのは一九九三年の一月だったので、来年三月まで二十八年余り、教員として通うことになる。大学院博士課程で生物学教室の毛利秀雄先生に二年間ほどご指導を受けたので、駒場に通うのは合わせて三十年以上になる。かなりの時間をこのキャンパスで過ごしてきたが、大半を研究室内に籠っていたので、キャンパスのことは、研究以外のいくつかの事件やできごとにつながっている。
着任して間もない一九九三年から一九九四年にかけて、駒場寮の廃寮に反対する学生組織に対応するために教員が駆り出された(『動員』と呼ばれた)。現在の21KOM CEE Eastとコミプラ北館の間あたりで、学生団体とにらみ合った。暴力にはならなかったが、その学生集団には女子学生もいて、近距離で顔を近づけられたり、大きな声で怒鳴られたり、ちょっと怖い思いもした。当時は、女子学生も現在より少なく、女性教員も少なかった。そのような中で、長崎暢子先生、瀧田佳子先生、工藤庸子先生らが駒場女性教員の会を開いて、着任間もない若手女性教員を励まして下さった。この会を通して駒場の文系の女性教員とのつながりができたことで、駒場の世界が広がったように感じることができた。
その後、いくつかの委員会等の仕事を通してさらに多くの駒場の教職員の方々と、そしてキャンパス自体にも絆を感じるようになった。特に、二〇〇九年から環境安全管理室長の任に就いたときには、二年間にわたり、産業医の梅景正先生とともにキャンパス内のすべての建物の視察を行い、学生会館やキャンパスプラザ、ラグビー部の部室や最西端の三昧堂、総合博物館の保管庫、昔の駒場寮と1号館を繋ぐ地下道など、普段は立ち入ることのない場所も廻った。全キャンパスの中身を掌握することができたような気がして、キャンパスへの愛情が増したように感じた。
そして、二〇一一年三月十一日の東日本大震災。キャンパス内に大きな被害がないことを確認し、十一日夜は研究室に泊った(その後、16号館六階の自分の研究室では、八〇〇キロもある電子顕微鏡が三〇センチほど場所を移動していたことが判明したのだが)。十二日に交通機関が動き出したので帰宅しようとした時に研究室の電話が鳴り、研究科長室内に設けられた駒場キャンパス災害対策本部に召集された。長谷川壽一研究科長のもと、執行部の教員や職員の方々とともに、学生や教職員の安否確認に当たった。確認が取れた限りでは、怪我人などはなかったが、ある問題が発覚。春休みを利用して、自動車免許取得の合宿で東北地方に出かけていた学生のグループが複数あり、安否確認がなかなか取れなかった。石巻に十数名、陸前高田に四名。その学生たちのリストを見ると、その学期に「生命科学」の私のクラスを履修していた学生がたくさんいて、心配がとても膨らんだ。研究科長や事務部長らは、学生の個人の名前に関わらず、あらゆる手を尽くして情報収集に当たられ、十三日になってから全員無事の確認をとることができた。その後、学生の帰路のバスを手配して、全員を東京に戻すことができた。この災害対策本部において、学生の無事を願い、安否確認と救出手段の確保に努めたことは、大きな東大の組織の中で『家族愛』を実感した貴重な経験であった。
話は前後するが、二〇〇二年十月にキャンパス内の図書館が現在のアドミニ棟の建物から駒場寮の跡地に移動して、新築オープンした。その少し前に、建築中の建物に掛けられていた覆いが取り除かれたとき、101号館前のあたりから見た建物に斜めの窓が付いていることに驚き、新たな時代を感じた。とはいえ、この図書館を利用する機会はなかったのだが、私の教員としての最後の三年間に図書館に関わる仕事をする機会をいただいた。この図書館が正式には「駒場図書館・総合文化研究科図書館」という名称であり、二人の館長がいることを知った。二〇〇二年の新築当初からⅡ期棟を増築する予定であったそうだが、それが近いうちに実現する計画のようである。情報コミュニケーションの場としての新しい図書館の在り方を模索しながら、プラン作成の一部に関わった者として、(おそらく数年後になる)新たな図書館の完成をとても楽しみにしている。
少しずつ様相を変えながら、多くの人々を受け入れ、多くの物語を生み出してきた駒場のキャンパスに、私も一員として存在していたことを嬉しく思います。そして、この空間と時間を共有していただいた皆様方に心からの感謝をお伝えして、駒場をあとにしたいと思います。

(生命環境科学/先進科学)

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