HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報625号(2021年2月 1日)

教養学部報

第625号 外部公開

<時に沿って> 微生物との会話における教養の必要性

晝間 敬

image10_3.png はじめまして。生命環境科学系・生物部会に准教授として着任しました晝間敬(ひるまけい)と申します。私の研究分野は、植物と微生物の相互作用学です。特に植物の共生菌と病原菌という一見真逆な感染様式を決定づける分子スイッチの理解や、植物が微生物集団をいわば拡張した自己として取り込み自身の環境適応に役立てている仕組みを理解することを目指しています。私は、二〇一二年に京都大学農学研究科で博士号を取得後、ドイツのケルン市にあるマックスプランク植物育種学研究所で日本学術振興会の海外特別研究員として二年間在籍しました。マックスプランク研究所は植物科学に関係する第一線の研究者が世界中から集う場で、様々な専門性を有する博士研究員が在籍しており、それぞれの強みを活かした共同研究は自分だけでは決して到達できない研究水準に導いてくれました。また、その中で頻繁に行われるミーティングや議論は大変充実していて、実際に論文を書く文言などに普段から触れることができ思考を整理できます。それは限られた時間内で第一線の研究成果を出していくために必須な要素だったと思っています。そういった場で二年間博士研究員として滞在できたのは今の自分に欠かすことが出来ない経験でした。今でもなんとか優れた独自性のある研究を進めていこうと試行錯誤していますが、上記の条件を満たす状態になかなか達しておらず、これからの課題となっています。続いて、奈良先端科学技術大学院大学(奈良先)の植物免疫学研究室に助教として六年強在籍しました。奈良先は大学院大学であることから、入学してくる学生の前提となる知識には大きな振れ幅があったものの、交流のあったほとんどの学生は別の大学の院を選ぶという小さな挑戦を経て入学しており、何かを新たに成し遂げたいという思いを秘めている学生が多かったように思います。また、この期間で知り合うことになった同年代の助教や博士研究員の方とはこれから長いこと続いていく研究人生を共に歩んでいきたいと思うほど、優秀かつ素晴らしい方々ばかりでした。
 そろそろ、次の場を考えないといけないと思っていたところ、縁あり、東大駒場にやってきました。ここに来るべくして来たという実感があります。というのも、植物微生物相互作用学は、腸内細菌叢の研究のように、宿主と一種類の微生物の相互作用を研究するトレンドから、徐々に、宿主と無数の微生物との相互作用を記述して、その背景にあるメカニズムを解き明かすトレンドへと急速に変化してきています。一方で、無数の微生物が織りなす相互作用を理解していくためには、既存の植物や微生物に関連した学問体系だけではなく、情報学、数理生物学、生態学と行った様々な異分野の教養および融合が必要不可欠です。そういった意味で、駒場の教育が掲げているリベラルアーツはこれからの融合研究の推進にはなくてはならない考え方を示していると思っています。これから、学生、スタッフの皆と単なる欧米や中国の後追いではない独自性の高い研究を行っていきたいと考えています。

(生命環境科学/生物)

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