HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報625号(2021年2月 1日)

教養学部報

第625号 外部公開

<送る言葉> エリス先生を送る言葉 ─言葉に尽くせぬ感謝をこめて

小林宜子

 一九九二年のご着任以来、本学の国際化推進のために計り知れない貢献をなさってこられたエリス先生が、駒場の多様化への歩みに大きな足跡を残し、ご定年を待たずに他大学に移られる。AIKOM短期交換留学プログラムが発足し、最初の留学生を迎え入れたのが一九九五年の秋。エリス先生はその準備段階からプログラムの運営に深く関わり、その後二十年以上にわたってプログラムの発展を支え続けた。AIKOMがその役割を終え、全学の交換留学プログラム(USTEP)に統合された際には、その制度設計の中枢を担い、また留学生と在学生が共に学べる環境を維持するために、新たなプログラムの設立に奔走なさった。この一連の経緯は、先生ご自身がお書きになった「AIKOM短期交換留学プログラムの二二年」と題する文章の中に詳述されている。二〇二一年に刊行される『駒場の七〇年』に収録される予定だが、このたび、先生のご好意により、一足早く拝読する機会に恵まれ、先生の熱意にあらためて敬服するとともに、上記のプログラムに参加した元留学生、派遣生を通じて世界各地に交流の輪が広がっていることに強く心を動かされた。
 だが、先生のご功績には、この文章には書かれていない側面がある。先生ご自身は「声を大きくして報告するようなことではない」とおっしゃるけれど、先生の献身的なお仕事ぶりを間近で拝見してきた同僚の一人として、あえてここに記しておきたい。AIKOMプログラム発足後の十年余りは、留学生を支援する体制がまだ十分に整備されていたわけではない。そのため、先生は留学生たちを生活面でも支えようと、来日した学生が寮生活に慣れるまで親身になって世話を焼き、体調を崩した学生の診察に付き添い、入院すれば毎日欠かさずに病室を見舞われた。震災が発生した際には、全員の居場所を確認し、寮に荷物を残して急遽帰国した学生の部屋の片づけに行かれたこともある。そうやって、初めての土地で不安を抱える学生たちに真摯に寄り添い、ご多忙を極める日々の中でも、助けを必要とする学生のためにご自分の時間を惜しみなく割いておられた。
 先生のこうした親身な優しさの恩恵を受けたのは、留学生だけではない。助言を求める相手とは、それが学生であれ、同僚であれ、真剣に向き合ってくださった。そして、対象に寄り添う姿勢は、先生がお書きになる詩の批評においても一貫している。詩の言葉を大切に慈しんで綴られる先生の論考は、明快な論理と繊細な感性が見事に調和し、先生のお人柄を映し出しているようで味わい深い。
 国際教育の充実のために休むことなく走り続けたエリス先生は、きっと新たな環境に移られた後も、歩を緩めることなくお仕事に邁進なさるのであろう。しかし、これからは少しでも多くの時間をご自身のためにお使いになれますように。言葉に尽くせない感謝の思いとともに、そう願わずにはいられない。

(言語情報科学/英語)

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