HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報627号(2021年5月 7日)

教養学部報

第627号 外部公開

〈後期課程案内〉医学部 人類の福祉への貢献を目指して

医学系研究科長・医学部長 岡部繁男

http://www.m.u-tokyo.ac.jp/

 教養学部のみなさんはこの一年間をどのように過ごされましたか。一年生のみなさんは大学入試を経験し、また二年生のみなさんは大学での学修の基礎を身につけられたことと思います。一方で、SARS-CoV-2のパンデミックによって日常生活が大きく変化してしまい、なかなか思い通りの学修ができなかった人も多いのではないでしょうか。人と人の接触を制限せざるを得ないことは大学教育にも強く影響しています。学生がいないキャンパスがこれほど寂しいものであることを改めて私も感じました。
 新興感染症の脅威についてはこれまでも指摘されてきましたが、実際に今回のパンデミックにより感染症の社会的影響の大きさが改めて明らかになりました。一九一〇年代に流行したスペイン風邪の際に取られた対策も、今回と同様の人との接触の制限を原則としたものでした。その点では現代のウィルス対策も一〇〇年前とあまり変わらないことになります。一方でスペイン風邪の病原体は当時全く不明でしたが、今回のパンデミックでは病原体の特定とゲノム配列の解読、それに基づくワクチンの開発が前例のない速さで進みました。今回の経験から、感染症を含む様々な疾患が社会に大きな被害を与えること、その克服に医学・医療の進歩が大きく貢献することがわかります。
 医学部の目標は生命科学・医学・医療の発展に寄与する人材を育成することです。このような人材が創造的な研究を行い、全人的医療を実践することが期待されます。医学部の歴史は一八五八年の神田お玉が池種痘所の設立まで遡ることができ、その一六〇年の歴史の中で多くの卒業生が社会に貢献してきました。基礎的な生命科学研究において国際的な研究者を輩出し、医療の最前線で活躍する医師を育て、更に社会医学や健康科学の分野に大きく貢献する人材を生み出す医学部の多様性とその将来性について理解していただければと思います。
 医学部には医学科と健康総合科学科があります。医学科は定員一一〇名でヒトの生物学、病気の発症機序、診断・治療の原理と応用について学び、医師免許を取得後に基礎医学、社会医学、臨床医学といった領域で国際的に活躍できる人材を養成しています。健康総合科学科は定員四四名で、健康の維持と病気の予防、社会や環境と疾患の関係性、介護や看護の科学など、多様な健康に関連する科学を学びます。
 医学科では医師養成のための職業教育という観点も重要ですので、多くの科目が必修科目であり実習が多く取り入れられています。医学部に進学後はまず基礎医学や社会医学を学び、それ以降は臨床医学を学びます。特に医学研究を志す学生にはPh.D.-M.D.コースやMD研究者育成プログラムなどへの参加を奨励しています。臨床医学の教育では参加型の臨床実習であるクリニカルクラークシップが重要なカリキュラムとなります。医学部医学科の教育は必修科目が多く、また求められる知識や技能も多岐に亘ります。一方で卒業後に更に各自が発展するには能動的な学修態度を身に着ける必要があります。そのためには学部生の間に積極的に様々な体験をしてもらいたいと思います。
 健康総合科学科のカリキュラムは幅広い内容に対応しており、三年次に希望専修の科目の履修が開始されます。健康総合科学科には「環境生命科学」「公共健康科学」「看護科学」の三つの専修があり、それぞれが異なった領域をカバーしています。学科名が示す様に、本学科では人々の生活にとって重要な構成要素である健康を学科全体の柱としています。人の誕生、成長・成熟、老化というプロセス全体において幸福の向上を実現する科学が健康総合科学であり、そのためには人間の個別性・多様性、社会背景・社会規範などへの配慮、社会への貢献の意識が重要です。卒業生は多様な進路を選択し、健康に関連したアカデミア、企業、公的機関で活躍することが期待されますので、学部生の間も学問と社会の関わりを意識した学修を心掛けてもらいたいと思います。
 医学部に進学する学生には医学部の持つ多様な教育や研究のリソースを活用して主体的な学修を行い、また医学と医療の社会との関わりについての理解を深めることを期待しています。今後の日本と国際社会が直面するであろう、健康と疾病に関連する様々な問題を解決するには生命科学と医学の進歩、そして得られた知識や技術の適切な実用化が不可欠です。多くの学生が医学に興味を持ち、人類の福祉に直接貢献してくれることを願っています。

(医学部長/分子細胞生物学)

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